「すぐ役に立つことはすぐに役に立たなくなる」? 池上彰がすすめる「おとなの教養」
時は師走。受験生にとっては最後の正念場です。インフルエンザも流行していたりして、心身ともに気の抜けない日々を過ごしていることでしょう。そんな受験生に、大学は「すぐに役に立たなくてもいいこと」を教えるところと言ったら、勉強への意欲を失わせてしまうでしょうか?
フリージャーナリストとしてだけでなく、現在は、東京工業大学でリベラルアーツセンター教授としても活躍する池上彰さんは、「リベラルアーツ」、つまり「教養」の重要性を自著の『おとなの教養』で指摘しています。
大学の仕事で、昨年アメリカの有名大学を視察した池上さん。エリート大学はどこもリベラルアーツ教育が基本で、文科系、理科系の幅広い分野の学問を学ぶそうです。たとえば世界のトップ大学のひとつ、ハーバード大は、学部で4年間のリベラルアーツ教育を受けた後で、医者になりたいのなら、メディカルスクールという大学院へ、弁護士や裁判官になりたいならロースクールへと進むプログラムになっています。
マサチューセッツ工科大学でも同様で、みっちりとリベラルアーツを学んだ後、それぞれの専門分野へ。日本の理系大学、理系学部では考えられないことでしょうが、音楽の授業がとても充実していて、ズラリと並ぶピアノを使い理系学生たちが学ぶことも。
同大学の教授によれば、科学技術の最先端の研究をしていても、世の中の進歩は速いから、その内容は4年で陳腐化してしまうとのこと。「そんな四年で古くなるようなものを大学で教えてもしょうがない。そうではなく、社会に出て新しいものが出てきても、それを吸収し、あるいは自ら新しいものをつくり出していく、そういうスキルを大学で教えるべき」と池上さんに話したそうです。
日本の大学では「社会に出てすぐ役に立つ学問を教えてほしい」と言う声が多いと池上さん。しかし、いわゆる世界のエリート大学では「すぐに役に立つことは、世の中に出て、すぐ役に立たなくなる。すぐに役に立たないことが実は長い目で見ると、役に立つ」という考え方に基づいているのです。
今から大学に入りなおすのはさすがにしんどい、という大人のみなさんには、本書などで現代の教養を学ぶことをおすすめします。人生は長いので、毎日が勉強なのかもしれません。
■『おとなの教養―私たちはどこから来て、どこへ行くのか?』(NHK出版新書)