趣味

王銘琬九段が経験したどん底の時


2013.07.23

第41期本因坊戦最終予選決勝(1985年)。写真提供:日本棋院

「超新星誕生!」——24歳・六段で本因坊戦リーグ入り、その3カ月後の名人戦リーグ入りと、衝撃的なデビューを飾った王銘琬九段。しかし、その後はリーグ戦に入れないどころか予選の決勝にも進めぬまま時が過ぎていった。

 

再起をかけて挑戦した名人戦リーグでは、意外な結果が待ち受けていた。当時の気持ちを王九段本人が語った。

 

*  *  *

 

両リーグ入りは「単に運がよかっただけだったのだ」と分かったのです。

 

それで始めたのが研究会。僕の自宅(東京都杉並区)の近所の棋士を集めて自分たちの打った碁を研究しあう会を始めたのです。

 

中心は釼持丈(現八段)さん。彼は碁も強いが遊び心を持った人でして、とにかく一緒に検討すると楽しいんです。

 

そうした研究の過程で「碁には勝敗を抜きにしても面白いことがいっぱいあるんだ」ということを教わりました。それまで僕はただひたすら「勝利」だけを追い求めてきたのですが、少しだけ視野が広がったのでしょう。

 

もちろん個人的な勉強量も増やしまして、その相乗効果もあったのでしょう。1994(平成6)年にようやく名人戦リーグに復帰することができました。

 

9年間でたまったエネルギーがあるので「今回はそう簡単には陥落しない!」――リーグ開幕前には、そのような自信がありました。

 

●しかし結果は、まさかの8戦全敗……。

 

————これにはさすがの王も「ショックでした」と当時を振り返る。「自分の棋士としての存在意義さえ疑った」そうである。

 

自分に期待し、全力を尽くしたリーグ戦だったのですが、内容も完敗続きで、惜しい碁さえ皆無。「自分はこのレベルで戦っていける棋士ではない」ことを認めざるをえませんでした。

 

ここまで大した実績もなく、年齢も30歳を過ぎた。ここから劇的に強くなった棋士の前例なんてありませんでしたし、トーナメントプロとしての自分の限界を見せつけられた思いがしたものです。

 

とはいえ僕は棋士ですから、碁に対する精進を怠るわけにはいかない。でも自分の力の限界は見えてしまったわけです。そこで僕は、碁に対するスタンスを考え直しました。

 

どういうことかというと、それまで僕は「勝ち」を求めて棋士人生をおくってきました。しかし、トーナメントでどんなに勝っても、タイトルを取るところまで行かないかぎり、最後にはどこかで負ける——そうなると「勝利」だけを目標に生きていくことが、果たして本当に正しいのか? 勝てないと分かっていて、それでも「勝利」を目指すことが、少なくとも僕の中ではつらくなっていたのですね。

 

釼持さんたちとの研究会によって「勝利以外の楽しさ」を知り始めていたことも、このように考えた一因となっていたのかもしれませんが、とにかく僕は「自分と碁の関係」を、改めて真剣に考え直したのでした。

 

■『NHK 囲碁講座』2013年7月号より

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