趣味

観戦記者が見た「不思議な碁」


2021.03.23

観戦記者だからこそ垣間見ることのできる棋士の側面を綴る人気コラム「観戦記者の独り言」。佐野真さんは、棋聖戦挑戦手合七番勝負で「不思議な碁」を目撃しました。

 

*  *  *

 

1月に開幕した棋聖戦挑戦手合七番勝負では、井山裕太棋聖に河野臨九段が挑戦しています(編注=第2局を終了した時点で井山棋聖の2勝)。

 

僕は挑戦者決定戦第1局の観戦記を担当したのですが、この碁は実に不思議な碁でした。

 

白番の河野さんが早々に四隅で実利を奪い、黒番の高尾紳路九段が厚みで対抗する立ち上がり。中盤に入った中央での折衝で、河野さんが黒三子を取り込み小さからぬ地を持って治まったことで、僕が見ても「白が優位に立った」ことが分かりました。記者室に詰めかけていた棋士数人の見解も同様で「白は実利が多いうえに厚い。これは決着が早いかも」との声も出ていたくらいです。

 

ところがその後、30手ほど進んでみると「意外と細かい」とのこと。優勢を意識した河野さんがやや手堅く打った気配があるとはいえ、明らかに白優勢と思われていた碁が、少し緩んだだけで勝負になってしまうのか? 半信半疑で推移を見守っていましたが、20手ほどのち河野さんにミスが出て、コミ分ほどの損。するともう「黒の勝勢」になっていたのですから驚くよりありません。

 

要は僕が、白の優勢を過剰に思い込んでいたということなのですが、河野さんがあれだけ存分に打ち回していたはずなのに、コミ分ほどのマイナスがあるとそれだけで、明白な優勢が敗勢へと転じてしまう──超一流棋士の「優勢」の尺度が、僕などとはひとケタもふたケタも違うことを、改めて思い知らされたしだいです。

 

※段位・タイトルはテキスト発売当時のものです。

 

■『NHK囲碁講座』連載「観戦記者の独り言」2021年3月号より

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