仲邑菫初段VS.芝野虎丸二冠 若き二人の真剣勝負


親戚の優しいお兄ちゃんが、かわいらしい女の子にお年玉をあげている写真である――と言われたら、囲碁を知らない人ならおそらく信じてしまうことだろう。いや、囲碁ファンであっても、日本囲碁界を代表する二人とはにわかには信じられないかもしれない。
かわいらしい女の子はもちろん仲邑菫初段。仲邑の動向は、常にファンの注目の的だ。2020年は21勝を挙げ、着実に実力を伸ばしている。英才特別採用推薦棋士として入段し、才能を認められた彼女は、遠からず日本囲碁界を背負って立つことを期待されている。
優しいお兄ちゃんは芝野虎丸二冠。2020年も好調を維持し、6月には村川大介九段より「十段」を奪取して、七大タイトル三冠の史上最年少記録を樹立した(10月に名人を失冠)。日本囲碁界に君臨するタイトルホルダーの一人だ。
1月3日のEテレ『新春スペシャル囲碁対局』でファン垂ぜんのドリームマッチが実現した。
期待以上の大熱戦
今を遡ること19年前、やはり特別番組で「13歳の囲碁棋士 井山裕太の挑戦」が行われた。迎え撃つは張栩NHK杯。そう、新進気鋭のプロ初段が、若き実力者に挑む、という構図が今年の二人も全く一緒である。
仲邑がこれから女流棋士という枠組みを超えた活躍をしてくれるのではないか。遠くない将来に「こんな対局をしていたね」と思い出と共に語られるのではないか――と想像を膨らませると、ワクワクしてくる。
とはいえ、解説の小林覚九段は「しばらく、よい勝負になってくれれば…」と、勝負は二の次というような微妙な言い回しであった。しかし、よい意味で戦前の予想を裏切った仲邑が、中盤まで時の第一人者を相手に一歩も退かぬ戦いを繰り広げた。期待以上にハイレベルな大熱戦だったと言っていい。
最後は芝野が貫禄を示したが、仲邑がもう一皮むければ一流棋士とも戦える、と期待させるのに十分の内容となった。
※段位・タイトルは放送当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年3月号より