趣味

井山裕太NHK杯の卓越した大局観


2021.03.30

左/富士田明彦七段 、右/井山裕太NHK杯 撮影:小松士郎

第68回 NHK杯 3回戦 第4局は、富士田明彦(ふじた・あきひこ)七段《黒》と井山裕太(いやま・ゆうた)NHK杯選手権者《白》の対局となった。佐野真さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。

 

*  *  *

 

卓越した大局観

 

いきなりではあるが、まずは盤上を。黒9のツケは、両サイドからのカカリとダイレクト三々に次ぐ「星への第4のアプローチ」として流行し始めている手法である。黒11に続いては白14のツギも考えられるが、井山裕太NHK杯は黒12 とマゲられることを嫌ったか、白12と押した。となれば富士田明彦七段が黒13とハネたのも自然で、黒19までは「妥当な進行」と解説の高尾紳路九段。

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ここで白20と下辺にすぐ打ち込んでいったのが、井山ならではの厳しさ。「左方の黒一団をハサんで攻撃する」くらいの気持ちか。黒21のボウシのあと白22から黒29までを換わり、そこで白30のツケ。1図の黒1、3なら白4から8のコウを仕掛け、白10、12と右下隅を連打できる。これは白よし。従って実戦の富士田は黒31から33、35と抜いて自重し、井山が白36、38と頭を出した。
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大胆さに脱帽

 

井山にとって2020年は「復権の年」だったと言えよう。2019年は五冠から三冠に後退し、芝野虎丸二冠(名人、王座)の誕生などもあって一強体制に暗雲が漂っていた。しかし2020年、芝野から名人を取り戻し、前人未到の「三度目の大三冠(棋聖、名人、本因坊の同時獲得)」を達成。暮れの天元防衛戦で一力遼碁聖に敗れ失冠したが「大三冠」の看板は何物にもまさる。

 

現在31歳。自身より10歳ほど若い世代が次から次へと台頭してくる中で、これだけの地位を確保し続けていられる最大の理由は、他者の発想にはない卓越した大局観にあるだろう。タイトル戦などの大舞台で観戦していると、一局の前半で優位に立っていることが多く、その貯金が最後にものを言わせ、ぎりぎりの勝負をくぐり抜けているように思えるのだ。

 

本局でもその大局観で、高尾九段をうならせる場面があった。白56のボウシである。
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2図の白1、3と進出していればごく普通であったが「井山さんには中央の白と重複するという不満があったのでしょうか」と高尾九段。「とはいえ実戦のボウシはかなり怖い打ち方で、僕には打てません」とのこと。黒57から白64に続いて黒Aと打たれたら、右辺に60目ほどの巨大な確定地を与えることになってしまうからだ。

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実際、黒Aで「取るものを取って」という方針もあっただろうが、実戦の富士田は黒65と上辺の荒らしを優先した。

 

ところが白70に黒71と出たのが失着。白72、74のワリツギから白76とスベられ、上辺黒のサバキを難しくしてしまった。黒71では右上隅を相手にせず、Bのマガリで上辺を補強しておくべきだったのである。

 

※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。

※段位・タイトルは放送当時のものです。

 

■『NHK囲碁講座』2021年3月号より

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