「できれば会いたくない」 木村一基九段、藤井聡太二冠と再戦


第70回NHK杯2回戦第15局では、木村一基(きむら・かずき)九段と藤井聡太(ふじい・そうた)二冠が早くも再び対峙した。小田尚英さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。
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会いたくない
「王位戦で痛い目に遭ったので、できれば会いたくない」
木村は事前インタビューでこう言った。4連敗で藤井に最年少二冠の記録を許した傷はまだ癒えていないようだ。羽生を解説に迎えたビッグカード。木村は分の悪い相手といかに戦うのだろうか。見届けたいと思った。
藤井の抱負は「決断よく指して熱戦になるよう頑張りたい」だった。控え室でも落ち着いていた。ラベルのないペットボトルを持っていたので尋ねると、放送のため自分ではがしたのだという。いい心配り。スーツに黒のスニーカーという足元が若い。NHK杯での活躍を期待するファンは多い。
開始前に黙想して心を落ち着けた木村は角換わりを選ぶ。羽生は「木村さんは相掛かりをよく指していたので少し意外」という。藤井が△3三銀をしばらく保留したのは「超急戦を避けた」ものとか。
木村には思うことがあった。流行の4八金型ではなく経験値の高い▲5八金~▲4七金に。以下、形を崩さず手待ちする後手に戦機を求める先手。この戦型特有の駆け引きとなった。
繰り返し
羽生は藤井について「あらゆる意味で話題になった」「常に新しいアイデアを出している」などと言及した。時代は違うが羽生本人のときも同じように言われた。将棋界にとっては素晴らしい歴史の繰り返しである。
本譜手順も、繰り返し気味。「駒がぶつかるまでは、ややこしい」と羽生さえ言う順だが、2図の直前で木村が▲4八金としたのがポイント。これで流行形に合流した。木村は「藤井さんが予想と違う手待ちの対応だったので直した」と説明する。なんと、用意していた構想が実現しなかったので、駒組みをやり直したのだという。
初見の仕掛け
▲4五歩(3図)から▲3五歩が、木村が当初案とは別に用意していた仕掛けだった。ちなみに△6五歩に▲同歩は△8六歩▲同銀△4七歩▲5八金△4六角で「攻められる」と羽生。
▲3五歩について、木村は後日、「対局の数日前に奨励会の弟子に試されて対応に戸惑った経験があり、また積極性があるので採用した」と明かしてくれた。様々な用意がないと最新形は指せないのだ。
藤井は▲3五歩に考慮時間を2回使い、一番自然な△同歩。藤井は「初見の手でした」という。そして▲5四歩(4図)が岐路の局面だ。
※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書は2020年12月21日現在のものです。
■『NHK将棋講座』2021年2月号より