静かな東京、飲みに行くのに便利な大阪……東西の将棋会館


観戦記者の後藤元気さんが将棋界のエピソードを綴る連載「渋谷系日誌」。今月号は東京と大阪にある将棋会館の違いについて。
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少し前のことになりますが、10月にA級順位戦の観戦記のお仕事で関西将棋会館に行ってきました。
東京の将棋会館は渋谷区千駄ヶ谷にあり、千駄ヶ谷駅からは6〜7分ほど。脇には鳩森神社、近隣には国立競技場や神宮球場、国立能楽堂に新宿御苑といった存在感たっぷりの施設に囲まれています。
繁華街からはほどよく離れており、対局中は静か。夏には盆踊りや花火の音が聞こえてきたりもしますが、それも風情の範囲かなと思います。
かたや関西将棋会館は大阪市福島区の福島駅至近。幹線道路に面しているので車の走行音、ときには救急車や消防車のサイレン、夜にはお酒を召した御仁の楽しげな会話が聞こえることも。静けさでは東京の会館の環境がよいかもしれません。
飲みに行くなら断然関西が便利で、福島周辺だけでなく梅田や北新地が徒歩圏内。もっともこのご時勢では安易に飲み歩くこともできませんが……。ランチも関西のほうが安くておいしい店が多い印象です。
そうそう、両会館で席次がいちばん高い対局室も色合いが違います。東京の特別対局室は窓の外の視界が開けており、近くは新宿副都心のネオン。遠くに富士山が見え(るような気がすることもあり)ます。
関西の御上段の間は東京の特別対局室と同じ18畳の広さですが、東京が独立した部屋であるのに対し、関西は他の対局室とつながっているため広く感じられます。床の間に木村十四世名人、大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、谷川浩司十七世名人の掛け軸が並ぶのも壮観。
部屋の造りは江戸城本丸の御黒書院を模したということで、対局室の雰囲気や格調の高さは、どうやら西に軍配が上がりますか。
ちなみに関西の対局室の窓の外は無機質なマンションのベランダです。将棋を見るには特等席のはずだけれど、外に出てきて対局を眺めている人は見たことがないですね。
夜になると光の関係でマンションが見えなくなり、ガラスには対局室もとい棋士の戦う姿が反射します。昼とのギャップもあってか、なんだか幻想的な将棋の世界に迷い込んだ気分になることもあります。
そういうことを観戦記に書ければいいのですが、新聞の将棋欄のスペースは少ないうえにちょっとおふざけしにくいので、こちらで少しだけ紹介させていただきました。
■『NHK将棋講座』2021年2月号より