初出場の斎藤明日斗四段、異例の大長考


第70回NHK杯2回戦第12局は、斎藤明日斗四段と佐藤天彦九段の対局となった。鈴木宏彦さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。
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思い切ってぶつかる
宮田利男八段門下には2人の新鋭がいる。2017年に四段になったのが本局の斎藤。2018年に四段になったのが本田奎五段だ。斎藤と本田は小学生時代からのライバルで、四段昇段レースでは斎藤が一歩先んじたが、本田は昨年の棋王戦でいきなり挑戦者になって周囲を驚かせた。
「あれは衝撃的だった。強いことは知っていたが、まさかタイトル挑戦とは。自分もうかうかできない」と斎藤。その斎藤が、「自分をアピールする場として意識した」というのが、今期のNHK杯戦だ。初出場の本戦で阿久津主税八段を相手に鮮烈な一手を放ち、86手の快勝。斎藤明日斗の名前は全国の将棋ファンの記憶に残ったと思う。その斎藤が今度は元名人の佐藤天彦九段に挑む。「思い切ってぶつかりたい」と対局前の斎藤は言った。
両者は練習対局の経験もなく完全な初手合いだそうだ。斎藤の先手で相掛かり。1図の△4二玉はこの局面では珍しい手。
「斎藤さんはヒネリ飛車を得意にしているので、それを意識した」と佐藤の感想だ。
研究手
2図の▲3六飛が斎藤の研究手である。「角がぶつかり合っている局面での▲3六飛は見たことがなかったので意表を突かれた」と佐藤。「2図で△3三金なら▲7五歩からヒネリ飛車に。△8四飛なら▲7七桂で▲8五歩を見る予定」と斎藤。
佐藤は△8八角成▲同銀△2二銀と変化した。▲7五歩に△8二飛と引き、3四の歩を取らせて△4五角が最強の反撃。これで激しいことになった。
「▲3四飛には△3三銀▲3六飛△2八角▲1七香△1九角成▲7七桂が予定。△4五角は▲8三歩があるので打ちにくいと思っていた」と斎藤。
大長考
さらに、「3図の△3三桂が研究になかった手で後悔した」と斎藤。ここまで研究しているだけでもすごいと思うが、まだ足りなかったというのだ。
3図で6回、さらに▲2五歩と打つ手に4回の消費時間を使って、斎藤はいきなり秒読みになってしまった。NHK杯では異例の大長考といえる。
3図では、①▲6六角△5四角▲7四歩△同歩▲9五歩△6四歩▲7七桂。②▲4五飛△同桂▲4六歩△7六飛。この2つの手段を読んだ斎藤だが、どちらも自信が持てなかったという。
実戦は第3のコース。今度は佐藤の強手が出た。
※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2021年1月号より