趣味

柳時熏九段 「天元取っちゃったんじゃないの」の言葉に重圧


2013.05.30

第20期天元戦挑戦手合五番勝負第4局(1994年)
写真提供:日本棋院

柳時熏九段が史上最年少で天元位を獲得したのは1994年、23歳のときだった。

 

当時は趙治勲、小林光一、林海峰、大竹英雄、加藤正夫、武宮正樹のベテラン勢、いわゆる「ビッグ6」がタイトルを独占しており、他の棋士がタイトルを獲得することはおろか、挑戦者になることさえ極めてまれであった。

 

そうした時代の中で入段7年目の若者が彗星のごとく天元位への挑戦権を獲得したのだから、これは小さくない衝撃であった。

 

そんな柳九段に自身の成功と挫折、そして囲碁界のこれからについて話を聞いた。4回シリーズの初回は、初の挑戦手合い直前の心境について振り返る。

 

*  *  *

 

僕自身、挑戦者になれるなんて、まったく考えていなかったんです。この時代、若手がいいところまでいっても、必ずベテランの先生に跳ね返されていましたからね。

 

だから小林光一先生との挑戦者決定戦に臨んだときも、完全に無欲でした。そういえば対局の前日、高尾山に登って「明日、勝てないだろうけど、全力だけは尽くそう」と誓ったことを覚えています。

 

それがなぜか勝ってしまった。実力では明らかに僕の方が下だったので、若さによる勢いだったとしか思えません。

 

で、挑戦者になったものの、挑戦手合というものがどう行われるのか、何をどうすればいいのかが分かりません。すべてが手探りで、しかも林海峰先生はもう「打っていただくだけでありがたい存在」ですから、勝てる自信なんて持てるわけがなかったのです。第1局の対局前夜は眠れませんでした。前夜祭で人前に出て話したのも初めてでしたし、あんなにカメラを向けられたのも初めて。あとで「堂々としていたね」と言われましたが、内心では緊張のしっぱなしだったというのが本当のところなのです。

 

でも、その第1局に勝ってしまった。とりあえず「3連敗はなくなった」とホッとしたのですが、第2局までにしばらく日が空くわけで、すると日本棋院で会う人たちが「天元、取っちゃったんじゃないの」とか言ってきて、これが結構プレッシャーになりました。こうしたことも楽しみの一環としてやれればよかったのでしょうけど、当時の僕にはサラリと流すだけの度量がなかった。まともに反応してしまって「なんでこんなことを言ってくるのだろう」とイライラしていたのです。

 

■『NHK囲碁講座』2013年5月号より

このエントリーをはてなブックマークに追加

  • bnr-texttop2021-300×56

  • テキストビュー300×56

  • bnr-eigo2021_300×56px

000069235962021_01_136

NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 おかえりモネ Part2

2021年08月10日発売

定価 1210円 (本体1100円)

000000057182021_01_136

青天を衝け(三)

2021年08月10日発売

定価 1540円 (本体1400円)

000064072752021_01_136

別冊NHK俳句 脳活!まいにち俳句パズル 秋冬編

2021年08月20日 発売

定価 880円 (本体800円)