趣味

「本から受け取ってきたものを、誰かに渡したい」 矢部太郎さんと本


2020.11.25

著書『大家さんと僕』の読者からの、クッションや人形、イラストは大切に飾っている。「ありがたいですよねぇ」としみじみ。撮影:相馬ミナ

漫画「大家さんと僕」で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞、現在は小説新潮で自身の父親との物語「ぼくのお父さん」を連載中の芸人、矢部太郎(やべ・たろう)さん。矢部さんにとって、本は「大切な気持ちや正義を教えてくれ、背中を押してくれ、目標にもなってくれる存在」だそう。矢部さんに、本との向き合い方についてお話を聞きました。

 

*  *  *

 

「本を読んでいれば許されることってありませんでしたか? なぜか大人から『偉いね』っていわれるし、まわりが放っておいてもくれるし。本を読むことで守られているなって感じることがありました。賢くも見えるし、一石二鳥ですよね」。矢部さんは、そんなふうに子どものころのことを笑い話として教えてくれます。夢中でページをめくる少年をそっと見守る大人がいる。その光景を想像すれば、とても幸せな読書の時間を過ごしてきたのだろうと思わされます。

 

絵本作家であるお父さんの影響もあり、実家にはいつも絵本や漫画があって、読む本には困らない幼少時代。当時夢中になったのは「子ども向けだけど、子ども扱いせずに正義を伝えてくれた」本だったり、今の画風に通じる、シンプルな線で描かれた漫画のような絵本だったり。それらが今も本棚にあるということは、大切にしているからこそ、実家から持ってきたのでしょうか?「いやいや、仕事に必要なことがあって送ってもらっただけです。あれ、でも結局見つからなくて、自分で買い直したのかもしれません」と笑います。

 

年齢を重ねるうちに、国内に限らず、海外の小説や漫画など、幅広く読むようになった矢部さんは、やがて、自身でも漫画を描くように。創作のときに背中を押してくれたのも、本の存在だったと話します。「自分で描くまでは、本って、ただ読んで楽しむだけのものでした。でも、それができるのは、書いてくれる人がいるからってことに気がつきまして。自分が描いたものでだれかが喜んだりしてくれるって幸せなことだと思い始めたんです」。自分が本から受け取ってきたものを、次は誰かに渡すことができるかもしれない。読む側から書く側へ。本を間にして、視点がぐるりと変わったことがわかります。それはきっと、本の力を信じているから。本の力で進めた日日があったから。「なんでもないときに雑談するのとか苦手ですけど、本のことなら話せるんですよね。間が持ちます。小さいころから本に救われてきたんだと思っています」

 

おこがましいですけど、と前置きをして教えてくれたのは『星の王子さま』を手にしてのこと。「複雑なことを抽象化して物語にしていてすごいなと感じています。いつか、こんな本を書けたらいいなと思っています」

 

そう話す矢部さんの隣には、ファンから贈られたクッションが置かれています。大家さんと矢部さんの姿が刺繍されたそれは、読み手がいることを思い出させてくれる存在なのかもしれません。本に守られてきた人が、だれかの支えになる本を書いていく。そんな幸せな本のリレーがある。矢部さんが描く作品によって救われた人がたくさんいるのがなによりの証拠であり、きっとそれはこれからも続いていくのでしょう。

 

■『NHK趣味どきっ!こんな一冊に出会いたい 本の道しるべ』より

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