魅力的な作品は、魅力的な作者から
新しい季節になり、新しい生活をはじめ、新しく短歌に触れる人の多くなる4月。歌を始めた彼ら・彼女らが真っ先にぶつけてくる質問は、とてもシンプルで、そして永遠の疑問ともいえる。
「どうしたら歌が上手くなりますか?」
この質問に歌人の天野慶氏が答えた。
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答えるときは、まず基本である「先人の歌をたくさん読むこと」と「とにかくたくさん歌を詠むこと」と答えるようにしているが、最近これにもう一つ付け加えるようにしていることがある。
それは、ベストセラーをたくさん生み出している女性編集者が「小説を売るために大切にしていることです」と教えてくださったことだ。
短歌の世界から見たら、小説には読者が大量にいて、ドラマ化や映画化とメディアも越えてもてはやされ、良いものであればどんどん売れているように思える。でも、それだけではだめなのだそうだ。
「本だけじゃなく、作者の魅力も伝えて〈この人の書いたものを読みたい〉と思わせることが大切なんです」という。
確かに、いま小説家たちはワイドショーで的確なコメントをしたり、若者を励ましたり。俳優や女優さんのような作家もたくさんいて、書店のPOPやチラシにも作者たちが素敵に微笑んでいる。本の魅力だけではなく、作者にも魅力が溢れている。
「本」の部分を「短歌」にして若い人たちに伝えている。魅力的な作品は、魅力的な作者から。短歌の歴史を見ても斎藤茂吉の魅力、与謝野晶子の魅力、そして穂村弘の魅力、どれも作品はもちろんのこと、その人となりに惹きつけられてしまう。
現代の作者たちの魅力が増して「この人の歌がもっと読みたい」と思わせてくれる日を楽しみにしている。
■『NHK短歌』2013年4月号より