緊張しながら出版社に電話、初めて買った歌集が宝物に
短歌を始めたばかりの頃、歌人の天野慶さんは大学図書館で読んだ短歌雑誌で話題になっている歌集を手に取ってみたい、と書店へ出かけた。しかし、歌集は容易に入手できなかったという。大切な宝物となった歌集を入手するまでの道のりを、天野さんが語った。
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書店でいつも行くのは一般文芸書のコーナーばかり。
「歌集はどこにありますか?」
と店員さんに尋ねて、
「はい、こちらですね」
と案内された棚の目の前にあったのは『バス旅行・楽しいレクリエーション歌集』というヒット曲の歌詞がたくさん載った本でした。それから歌集を手に入れるまでの長い旅が始まりました。
私が初めて欲しいと思った歌集は梅内美華子さんの『横断歩道(ゼブラ・ゾーン)』でした。
歌集タイトルはわかったものの出版社がわからず、書店で注文ができませんでした。大学のパソコンで検索して出版社を突き止め、再度書店に向かったが「取引のない出版社なので」と断られてしまいました。
出版社に直接電話して本を買う、というのは初めてだったのでとても緊張したことを覚えています。出版社。いつも電話が鳴り響き編集者が髪を振り乱して原稿をチェックしているイメージ……。はたしてそんなところにおいそれと電話をかけてもいいのだろうか……。勇気を出して電話をして手に入れた歌集はしばらく私の宝物になりました。
■『NHK短歌』2013年1月号より