趣味

時代を超えて共感を呼ぶ 西行の歌に込められた願望とは


2014.06.22

思い入れのある古典を1首選び、その歌にまつわる思い出を綴る連載「ジャパニーズポエム 私の好きな古典」。6月号では「短歌人」・[sai]所属の歌人、生沼義朗(おいぬま・よしあき)さんが男子校ならではのエピソードも交えて西行の名歌を紹介する。

*  *  *

願はくは花のしたにて春死なん そのきさらぎの望月(もちづき)の頃

西行『山家集』

中学と高校は工業大学附属の中高一貫校だったので、エンジニアの親を持つ同級生が多かった。そのせいか、人文科学に対する関心は全体に薄かったように思う。

それでも中学1年のときには「小倉百人一首」を暗記させられ、冬休み明けには、火の気のない体育館でカルタ取り大会をした記憶がある。どの歌でもいいから十五首暗誦できれば、期末試験の成績が悪くても赤点にはしないとも言われたので、みんなで必死になって覚えた。

高校2年と3年のときの漢文の担当教師は定年間近の先生で、今思えば捨て身だったのか、放課後に受験対策名目で行っていた自主ゼミのテキストが、11世紀に成立したとされる漢詩文集『本朝文粋(ほんちょうもんずい)』に収められた戯文「鉄槌伝」だった。漢文で書かれた、日本最初と言われる色情文学である。冒頭の一節「鉄槌(てっつい)、字(あざな)は藺笠(ゐがさ)、袴下毛中(こかもうちゅう)の人なり」は今でも諳んじている。言うまでもなく、主人公は男性の下半身を擬人化したものだ。男子校なんてこんなもんである。

まあ「私の好きな古典」が「鉄槌伝」じゃ、あまりにあんまりなので(ジャパニーズポエムでもないし)、掲出歌について。最初に目にしたのは中学生か高校生の時分とは思うが、はっきり覚えていない。教科書に載っていた気がするが、違うかもしれない。その頃から、ずいぶん寂しい、だが奇妙な明るさを湛えた歌だと感じた。花は無論、桜の花。そして今でも、満月の夜の桜の樹の下に躰を横たえる西行の姿を思わずイメージする。

西行も掲出歌もあまりに有名なので今さらではあるが、北面の武士・佐藤義清(のりきよ)は23歳のときに出家。諸国を漂泊ののち、歌の通りに釈尊涅槃(ねはん)の日でもある陰暦2月15日の翌16日に河内国の弘川寺で入寂したと言われている。享年73。西行の生きざまと掲出歌の願望の一致は、当時から共感を呼んだとされる。

桜の季節にはこの歌を連想する人も多いだろう。まさに西行は、時代を問わず、人と時代の共感とあこがれが向く存在なのである。

話は変わるが、この原稿を書いている途中、心疾患で母が倒れた。一命はとりとめたが、かなり危なかったらしい。2月には、父と同年生まれの小高賢さんが急逝された。否応なく、そうした年代に自分がさしかかっていることを自覚しながら、あらためて掲出歌を口ずさんでみる。平易で静かな語り口にせつなさが滲んでいることに、あらためて気がついた。さて、父母は、そして私は、いかなる最期の迎え方をするのだろうか。

■『NHK短歌』2014年6月号より

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