趣味

弁当を通して詠われてきた心の機微


2014.06.18

日本特有の文化であるといっていい弁当。作る人が食べる人のことを思いながら作り上げる弁当には、それぞれにストーリーが存在する。そんな弁当を詠った短歌を、「かりん」編集委員の梅内美華子(うめない・みかこ)さんが紹介する。

*  *  *

弁当というと思い浮かべるのはどんな光景でしょう。遠足。学校や勤め先の昼休み。旅先で出会うご当地ものの駅弁。外出先で食べるための、容器に入った手軽な食事である弁当にはいろいろな思い、思い出があるものです。子供のお弁当を作るお母さん、最近は若いお父さんもお弁当作りをしているとか。早起きをして、冷めてもおいしいもの、腐りにくいもの、そして彩りを考えて弁当箱に詰めてゆく。夫が食べるのは愛妻弁当。日の丸弁当は質素な弁当の代名詞。そしてどれくらいの種類があるのかわかりませんが、豊富な駅弁の数々。このように思い浮かべても、弁当の文化が日本特有であることをあらためて思います。

そして他人がどのような弁当を食べているかが気になるのも人の性(さが)。さまざまな場所や環境で弁当が開かれ、弁当ごとに場面があり、ストーリーがあります。作った人、食べる人の日常や思いが小さいけれどもかけがえのないものであることを思い、温かく慎ましい気持ちになる、そんな短歌を見てみましょう。

弁当の卵焼食ふ片方の端を今ごろ子も食ひをるか

小林信也『千里丘陵』

卵焼きは弁当の定番。ふんわりとした黄色が浮かんできます。第二句でいったん切れ、続く「片方の端を今ごろ子も食ひをるか」によって、子供と父の両方の弁当に入っているというのがわかります。この歌では「片方の端」という具体がリアルで効いています。横長の卵焼きを切り分けて、子供と父が分け合っているのです。離れていても同じものを食べている、そして「今ごろ」と思い浮かべる父の心。家族らしい場面と思いが卵焼きを通してうたわれています。

海苔敷きて塩ジヤケ載せたる弁当をつかひて昼を昔のごとし

島田修三『シジフオスの朝』

こちらは海苔弁。上の句の描写によって黒々とした海苔の色、鮭の薄紅色が見えてきます。「弁当を使う」とは、弁当を食べること。上の世代が使っていた言い方で、現代の若者には馴染みが薄いものかもしれません。この古風な言い方が、歌に懐古的なおもむきを加えています。海苔弁の庶民性から、「弁当を使う」という言葉が導き出され、結句の「昔のごとし」という感慨を引き出したのでしょう。「昼を昔のごとし」の「を」は持続する時間を表す助詞で、その文語を生かした格調が上の句の通俗性とバランスをとっています。

玄米のごはんの弁当おとたてずはみていしひと解雇せしわれ

大井 学「かりん」2005年9月号

作者は勤め先でプロジェクトのリーダーだったときに人員を決めねばならず、非正規の人を解雇にしたという。実際に判断を下したのは自分であるという、やりきれない思いが淡々とした描写から滲んできます。静かに弁当を食べていた人、それも健康によい玄米のご飯を食べていた人。「おとたてずはみていしひと」の平仮名表記は、解雇した人の雰囲気と存在を尊重したものであるのでしょう。組織の中にいる自身の苦い経験と思いが、他者の慎ましい飲食の姿を通してうたわれています。

■『NHK短歌』2014年6月号より

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