趣味

山城九段、「棋聖戦史上に残る七番勝負」を振り返る


2013.10.16

山城宏九段 撮影:小松士郎

山城宏(やましろ・ひろし)―10代のころから日本棋院中部総本部の未来を担うホープとして「中京の豆ダイヤ」と呼ばれ(兄弟子の羽根泰正が“中京のダイヤモンド”と呼ばれたことに由来する)、その期待に違わず、これまで棋聖、本因坊、天元、王座など、数々のタイトルに挑戦してきた。

 

ところが、いずれのタイトル戦でも勝利を収めることができなかったのは、その実力を考えれば不思議でならず、まさに「無冠の帝王」と呼ぶにふさわしい真の実力者であることは、碁界の誰もが認めるところである。

 

特に惜しかったのは、平成4年の棋聖戦。六連覇中だった小林光一棋聖を3勝2敗と追い詰めながら残り二局を落とし、悲願のタイトル奪取がならなかった。しかも最終第7局は終盤で必勝態勢を築き上げながら、痛恨の失着で半目負け−−20年以上が経過した今でも、中部のファンが「あのミスさえなければ……」と悔しがる一局である。

 

『NHK囲碁講座』で好評連載中のシリーズ「敗れざる棋士たち」。今回は、山城宏九段に「棋聖戦史上に残る七番勝負」を振り返ってもらう。

 

*  *  *

 

確かに、今になってもファンの方から「あの碁が……」と言われますし、マスコミの方々からも「痛恨の〜」という表現をされるのですが、実は僕本人の中では、それほど痛恨だとは思っていないんですよ。

 

そもそも挑戦者になったとき、まさか自分が棋聖戦の挑戦者になれるとは思っていなかったのです。そして小林光一先生は当時、名人と合わせての二冠をずっと連覇中で、無敵を誇っていましたからね。僕なんかが挑戦者になったからといって、勝てるなんて意識を持てという方が無理みたいな雰囲気がありました。

 

ですからシリーズが始まる前に僕が思っていたのは「あまりにみっともなく負けるのは嫌だなぁ」ということでした。それくらい小林先生の存在は大きかったですから、中部のファンの皆さんが応援してくださるのはありがたかったのですが、僕としてはとにかく一生懸命に打つしかない―それだけでしたね。

 

しかし開幕してみたら、まさかの3勝3敗で最終局に。しかもその第7局は、確かに言われているように、僕に勝つチャンスがあった碁でした。それを逃して負けたわけで、まあ痛恨と言えば痛恨で、負けたからもちろん悔しいのですが、先ほども言いましたように、僕個人としては周囲の皆さんが思っているほど痛恨だとは感じていないんです。

 

というのも、この七番勝負を経験したことによって、僕は明らかに強くなったからです。これは間違いのないところで、実際にこの棋聖戦での敗退後、僕はずっと勝ちまくりまして、この年の暮れの天元戦で挑戦者となり、翌年の本因坊戦でも挑戦者になっているのですから。

 

七番勝負で強くしていただいた

 

では棋聖戦の七局を経験したことで、具体的に何が強くなったのか? はっきり「これ」と断言することはできないのですが、小林先生の碁に対する情熱に触れ、そうした真摯さに感化されたということでしょうか。

 

二日制の七番勝負を打つと、局後はもう疲労困ぱいですから、通常あまり感想戦は丁寧にしないものなんです。しかし小林先生はどんなに疲れていても、決して検討をおろそかにするようなことはなく、1時間でも2時間でも真剣に付き合ってくださいました。

 

しかも自分の思ったことを正直に話してくれるというか、自分のすべてをさらけ出してくださったんですね。まるで指導碁で手直しをされているような感覚で「ああ、先生はこういうことを考えていたのか」とか「なるほど、こういう考え方もあったのか」と、本当に勉強になったのです。

 

だからこのシリーズで僕が3勝を挙げることができたのも、小林先生のおかげと言ってもいいのかもしれません。七番勝負を戦っているうちに、僕を強くしていただいたというか…。僕がこのシリーズのあと落ち込むどころか絶好調になったのは、間違いなく小林先生のこの指導による好影響なのです。

 

具体的にどこが強くなったということは自分でも分からないのですが、先生の碁に対する姿勢を見て「自分も近づきたい」と思い、少しは努力をするようになったということなのでしょう。あれから20年以上がたった現在でも、何とかリーグ戦の舞台で戦えている(棋聖戦リーグに在籍中)というのは、このときの貯金だと言っていいのではないかと思っています。

 

やっぱり碁打ちですから、打っている以上は強くなりたいですからね。この七番勝負で得たものは僕にとって最大の財産であり、こうした気持ちだけは絶対に忘れてはいけないと、常に自分に言い聞かせているのです。

 

■『NHK囲碁講座』2013年10月号より

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