“死の病”から“慢性疾患”へ……HIV・エイズの今


「抗HIV薬」はこの15年で大きく進歩し、1日1回1錠の服用で十分な効果が得られるようになった。平均余命も大きく延びている。国立国際医療研究センター 臨床研究センター長の満屋裕明(みつや・ひろあき)さんに、HIV・エイズの最新情報をうかがった。
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HIVとエイズ
「HIV(※1)」とは、体内の免疫細胞(CD4陽性細胞)を破壊してしまうウイルスの名前です。
HIVに感染してから数年間は、特に自覚症状のない期間(無症候期 ※2)が続きます。しかし、治療を受けずにいると、体内でHIVが増え続け、免疫細胞は徐々に減少して免疫の働きが低下していきます。そして、数年後には、健康なときには感染しにくいような弱い細菌やウイルスにも感染するようになり、さまざまな感染症や悪性の病気が起こるようになります。これが「エイズ(※3)」の発症です。
以前はエイズの発症を防いだり、病気の進行を食い止めることが難しかったため、エイズといえば“死の病”と捉えられがちでした。しかし、この15年ほどで治療が飛躍的に進歩し、エイズは一生つきあっていく“慢性疾患”と考えられるようになってきています。
実際に、HIV感染者の平均余命は、この10年間で約16年も延び、20歳時で約46年になっています。ただし、これは適切な治療を受けた場合のことで、全く治療を受けなければ、余命は感染後数年から長くても10年に満たないと考えられます。
患者の動向
世界的に見ると、HIVに感染する人やエイズを発症する人は、減少する傾向にあります。
しかし、日本では、HIV感染者、エイズ発症者数は共に増加傾向にあると報告されており、両者を併せると、累積数は2万人を超えています。
※1 ヒト免疫不全ウイルス。HIVは、英語の「Human Immunodeficiency Virus」の略。
※2 無症候期でも、ほかの人に感染させるおそれがある。
※3 後天性免疫不全症候群。エイズ(AIDS)は、英語の「Acquired Immunodeficiency Syndrome」の略。
■『NHKきょうの健康』2013年12月号より