がんの手術後は「リンパ浮腫」に注意しよう


がんの手術後に起こりやすい「リンパ浮腫」は、一度発症すると完治しにくく、継続した治療が必要となる。国立がん研究センター中央病院 看護師の八多川淳子(はたがわ・じゅんこ)さんにリンパ浮腫について詳しく聞いた。
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「リンパ管」に何らかの障害が起こり、リンパ液の流れが滞って、腕や脚などがむくんだ状態を「リンパ浮腫」といいます。
リンパ管は、血管と同じように私たちの体内に張り巡らされており、その中をリンパ液が、リンパ管の各所にあるリンパ節を経由しながら流れています。リンパ液には、たんぱくや脂肪、水分のほか、ウイルスや細菌を攻撃するリンパ球なども含まれています。
リンパ管やリンパ節が手術などによって損なわれると、リンパ節の脇にリンパ管の脇道ができて、代替して働くようになります。しかし、その脇道は細く働きが弱いため、負担が大きくなり過ぎると、流れが滞ってリンパ液が皮膚の下にたまり、むくみが起こるようになるのです。
進行すると、腕の場合は「力を入れにくい」「重いものを持つのがつらい」「文字を書きにくい」など、脚の場合は「歩きにくい」「膝を曲げにくい」「階段の上り下りがつらい」など、日常生活に支障が出ることがあります。
起こりやすい部位
リンパ浮腫のほとんどが、がんの手術や放射線治療を受けたリンパ節の近くに起こります。例えば、[1]乳がんの手術でわきの下のリンパ節を切除した場合には手術した側の腕や背中に、[2]子宮がん、卵巣がん、前立腺がん(※)などの手術で骨盤内のリンパ節を切除した場合には脚などに、起こりやすくなります。
同じような手術を受けても、リンパ浮腫が起こるかどうかや、その程度は人によって異なります。これは、リンパ管の脇道の発達の程度やリンパ液の量、生活習慣によって腕や脚にかかる負担などに個人差があるためと考えられます。
また、発症する時期にも個人差があります。最も多いのは治療後2〜3年たってから発症するケースですが、治療直後に発症したり、5〜10年後に発症するケースもあります。リンパ節を切除したりした場合には、リンパ浮腫が起こる可能性は常にあることを知っておくことが大切です。
※ リンパ浮腫の患者さんの多くが女性だが、前立腺がん、皮膚がん、整形外科系のがんなどで、リンパ節を切除した場合は、男性にも起こることがある。
■『NHKきょうの健康』2013年11月号より