教養

「切ったら血の出るような線を」柿沼康二さんを導いた師の言葉


2013.09.20

「崩壊」 手島右卿 69×140cm
昭和32(1957)年制作(光ミュージアム蔵)
終戦間近の空襲のさなか、「くずれゆくものの美」が書で表されている。

栃木県に生まれ、五歳から筆を手にしていたという書家・アーティストの柿沼康二(かきぬま・こうじ)さん。徹底的に古典を学ぶ書家でありながら、芸術のジャンルにとらわれない創作活動をも行う彼の原点には、同じく書家である父の背中と、師匠・手島右卿(てしま・ゆうけい)氏との出会いがありました。

 

*    *    *

 

高校1年生のある日、柿沼さんは書に本気で向き合う気持ちがあるかどうかを書家である父、翠流(すいりゅう)さんに尋ねられます。柿沼さんの心に迷いはありませんでした。

 

「栃木県で一番の人についたら栃木県で一番にしかなれない。日本一の師匠につければ日本一に」

 

と考えた翠流さんは、手島右卿氏に手紙を書きます。

 

右卿氏は、空海の書法を現代芸術にまで高め、昭和の三筆とも称された能筆家で、自分の師匠でもありました。

 

気難しいことで知られていた師は、緊張する柿沼さんを門前で快く迎えてくれ、柿沼さんが書いて持参した、光明皇后『楽毅論(がっきろん)』の半紙臨書に、紙が真っ赤になるほど朱を入れました。しかし、このとき、「今からやれば、わしを超えられるかもしれない」という言葉もかけてくれたのです。

 

翌年、右卿氏はこの世から旅立つこととなりますが、短いけれど濃密だった師弟関係は、一生のものとなりました。

 

「切ったら血の出るような線を引いてほしい」。生前、師がよく口にされていた言葉は、現在の柿沼さんの書に継がれているのです。

 

■『NHK趣味Do楽 柿沼康二 オレ流 書の冒険』より

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