教養

良きライバルはいますか


2021.05.14

「心の花」編集委員の佐佐木頼綱(ささき・よりつな)さんの講座「スポーツと日常」。“ライバル“はスポーツを題材とした作品には欠かせない要素の一つですが、短歌の世界でも歌人同士がライバルとして切磋琢磨するケースがあります。「ライバル」を詠んだ歌を佐々木さんに紹介してもらいました。

 

*  *  *

 

短歌の本を読んでいるとライバル関係にあった歌人の名前がよく出てきます。同時代に互いを意識しあったライバル以外にも一時期のライバルであったり一方的な目標であったり、または歌壇政治や恋路のライバルであったりと関係は様々ですが、競い争うコミュニケーションは多くのエピソードと名歌を生んできたようです。短歌にもスポーツにも大事な要素である「ライバル」はどう詠われてきたのか見てみましょう。

 

あの野郎・やつ・彼・小高・小高君変化はわれのこころの変化

岩田正(いわた・ただし)『柿生坂』

 

2014年に逝去された小高賢(こだか・けん)氏を詠んだ歌です。二人の関係の始まりは争いだったのでしょう。年下の友人への「あの野郎」から「やつ」「彼」と徐々に敵意が浄化されやがては敬称を付けています。敵意から始まった関係は〈死はひとのもの削ぐ自分を他者を削ぐ小高賢の死わが意欲削ぐ〉〈われを越えむわれ越されじと歌つくるライバルは死後も永久(とは)のライバル〉といった歌が続き、ライバルは歌の道に沿って作者と一つの様に団結してます。美しいライバル関係の連作です。

 

夜昼となくあ痛よと洩せどもライバルどもに移す手のなし

竹山広(たけやま・ひろし)『地の世』

 

遺歌集に残された歌です。祈りや家族や夫人への想いを込めた歌の並びにこの歌はあります。痛みの表現の上の句から「ライバルども」「移す手のなし」と竹山さんらしい下の句が展開します。可笑しさを描きながら、人間臭さを表現したのではないかと私は読みました。ライバルとは誰なのでしょうか。多くのライバルがいたように思いますが、竹山さんがお元気な頃(ころ)「若い頃は佐藤佐太郎(さとう・さたろう)の歌を意識した」「佐佐木幸綱(ゆきつな)さんは永遠のライバルです」と伺ったことがあります。

 

■『NHK短歌』2021年5月号より

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