教養

ブルデューの先鋭な階級意識


2020.12.27

1930年、フランス南西部のダンガン村という農村に生まれたピエール・ブルデュー。学校では優秀な成績を修め、県都のリセ(高校)からパリの名門校リセ・ルイ=ル=グランの準備学級に入学。そして1951年、高等教育機関グランゼコールの中でも最難関とされるエコル・ノルマル・シュペリユールに合格し、哲学を専攻するようになります。超エリートばかりが集まる学校の中で、ブルデューのような地方出身者はきわめて少数でした。こうした来歴が、ブルデューの思想に大きな影響を与えました。社会学者で立命館大学大学院教授の岸 政彦(きし・まさひこ)さんが解説します。

 

*  *  *

 

地方の農村部からパリに出て最高学府の最高権威に上り詰めたブルデューは、パリの上流階級出身でたいした苦労もなく大学に行って大学教授になった人に比べ、階級構造に対する意識を強く持っていました。そこでブルデューは、人びとが当たり前と思っていることを歴史的・構造的文脈からとらえ直す研究をおこないます。

 

階級的に上位にある人々、特に「よい大学」を出た人々は、その成果を自分の才能や努力のおかげだと信じ切って、その地位を享受(きょうじゅ)することを当然だと思いがちです。しかしブルデューは、今回紹介する『ディスタンクシオン』などの多数の著作のなかで、私たちが自然だと思っていること、当然だと思っていることが、いかに階級などの社会構造に規定され、条件付けられているかを明らかにしました。たとえば、聴く音楽、毎日の食事、好んでおこなうスポーツ。あるいはもっと微細な身のこなしや態度、歩き方や喋り方まで、こうした日常的な行為や認識が、いかに社会によって決定(と言うと言い過ぎですが)されているかを、執拗(しつよう)なまでに説き続けたのです。

 

ブルデューは社会学のことを、「お邪魔な学問」と表現したことがあります。特権を享受している人にとっては明るみに出してほしくないことを、平然と暴(あば)くことがある学問だからです。ブルデュー自身、学問の世界ではエリートだったわけですが、彼の仕事にはそうした構造を批判する政治的コミットメントがあったと私は考えています。その根底にあるのは、階級格差に対する強い怒りです。

 

一方で、ブルデューには特筆すべき特徴がありました。それは、彼が庶民階級に対してもほとんど幻想を持っていないことです。これはおそらく、ブルデュー自身が庶民階級出身の当事者だからでしょう。インテリ階級の学者は民衆に対するロマンが強く、ややもすると「民衆たちが立ち上がっていつか革命を起こす」と真顔で主張しますが、そのような庶民階級に対する幻想を、ブルデューはいっさい持っていませんでした。

 

そのためにブルデューは一部のインテリからは嫌われていたようです。ブルデューはものすごく孤独な人だったと私は思います。民衆に対する幻想もなく、一方では自らもその一員であるインテリ階級の足元を掘り崩すようなことばかり書いていたのですから。

 

しかし特に晩年のブルデューは、民主主義と社会的平等を断固として擁護する立場で、積極的に政治的問題にコミットするようになります。街頭デモや集会に参加し、グローバリズムや新自由主義、大企業による搾取(さくしゅ)に猛然と反旗を翻しました。

 

インテリや上流階級の幻想を解体しつつ、庶民階級にも幻想を抱かず、それでもなお希望を捨てなかったブルデュー。私は、そんなブルデューの姿勢がたまらなく好きですし、大きな影響を受けていると思います。

 

■『NHK100分de名著 ブルデュー ディスタンクシオン』より

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