教養

弥生時代から人のそばに──「ニワトリ」を詠む


2021.01.02

歌人の松村正直(まつむら・まさなお)さんが講師を務める講座「干支(えと)のうた」。今月のテーマは酉です。ニワトリを詠んだ歌を鑑賞しましょう。

 

*  *  *

 

ニワトリは野鶏(やけい)を家畜化した動物で、日本では弥生時代頃に大陸から伝わったようです。明治以降の食生活の変化に伴って、卵や肉を得るために数多く飼育されるようになりました。かつては養鶏場だけでなく、農家の庭先でも放し飼いになっている姿をよく見かけたものです。「コケコッコー」という鳴き声も特徴的で、昔話にも朝を告げる声としてよく出てきます。それだけ人々の暮らしに身近な存在だったのでしょう。

 

日蔭より日の照る方に群鶏(むらどり)の数多き脚(あし)歩(あゆ)みてゆくも

宮柊二(みや・しゅうじ) 『群鶏』

 

放し飼いにされている多くの鶏が、日蔭(ひかげ)から日向(ひなた)へ移動する様子です。鶏の脚に注目して、脚の動きだけに焦点を当てているところが印象的ですね。クローズアップの画面のように鮮明に動きが見えてきて、写生の見本となるような一首です。明るい地面やそこに伸びる鶏の影が目に浮かんできます。鶏のことを詠んだ歌ですが、人間の集団心理を象徴的に詠んでいるようにも感じられます。

 

人間になき行為にて白き白き卵を抱ける鶏(とり)を清(すが)しむ

富小路禎子(とみのこうじ・よしこ) 『未明のしらべ』

 

鶏が卵を温めるありふれた場面ですが、それを「人間になき行為」と捉えたところに独自の眼差(まなざ)しがあります。鶏と違って哺乳類である人間はもちろん卵を産みません。白い卵に何か憧れのようなものを感じたのでしょうか。「卵」と題する一連六首のうちの一首です。「卵」は初期の富小路作品のキーワードとなる言葉で、「処女にて身に深く持つ浄き卵(らん)秋の日吾の心熱くす」など、いくつもの歌があります。独身で子を持たなかった作者の思いが、そこには投影されているのかもしれません。

 

■『NHK短歌』2021年1月号より

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