教養

人間を天使と悪魔に分ける「強制収容所」という極限状態


2013.03.29

第二次世界大戦中に強制収容所に収容されたユダヤ人精神科医ヴィクトール・E・フランクルが、自らの過酷な実体験をつづった『夜と霧』。この中で、凄惨を極める収容所での生活の中で、人々は自分の心を守るために「無感動」「無感覚」「無関心」状態になっていったとフランクルは記している。

 

しかし、殺伐とした毎日の中でも祈ることを忘れず、感謝することを忘れないような精神の持ち主は、生きのびることができた確率も高かったのだという。極限状態に置かれてもなお、「精神性の高さ、豊かさ」を保ち続けることは、非常に困難だったはずだが、そんな人たちが実際に存在していたことを示すエピソードがある。明治大学文学部教授の諸富祥彦(もろとみ・よしひこ)さんが解説する。

 

*  *  *

 

フランクルが強制収容所の中で発見した真実。それは、強制収容所の極限状態にあって——死にゆく仲間のパンや靴を奪い取る者がいた一方で——みずからが餓死寸前の状態にありながらも、仲間に自分のパンを与え、あたたかい励ましの言葉をかけ続けた人がいた、という事実でした。

 

フランクルは言います。

 

典型的な「収容所囚人」になるか、あるいはここにおいてもなお人間としてとどまり、人間としての尊厳を守る一人の人間になるかという決断である。(『夜と霧』霜山徳爾訳 みすず書房、167頁)

 

多くの科学者は、人間は極度の飢餓状態に置かれると、仲間を殺し、人肉を食べてでも生きのびようとするものだと考えていました。しかし、フランクルが強制収容所の中で実際に目(ま)のあたりにしたものは、それとは異なる事実——極限状態において、人間は天使と悪魔に分かれた、という事実でした。

 

収容所という極限状態にあっても、人間は一様に同じ状態になるのではないこと。その人がどのような人間であるかは、あくまで個人がとる精神的な態度によること。そして、その態度によって人間は天使にもなりうるし、悪魔にもなりうる、ということ——この事実をフランクルは収容所の中で発見したのでした。

 

■『NHK100分 de 名著』2013年3月号より

 

 

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