教養

『孫子』――乱世を生き抜くための哲学


2014.03.19

『孫子』兵法を紹介する巨大テーマパーク、孫子兵法城にある孫武像。写真提供:著者

今から約2500年前、春秋時代の中国は大動乱期にあった。諸侯が独立し、国の存亡をかけて各地で戦争を繰り広げる、いわゆる群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)の時代である。

 

その乱世に誕生したのが、『孫子』だ。『孫子』は、春秋の五覇と呼ばれた諸侯の一人、呉王闔廬(こうりょ)に仕えた孫武(そんぶ)がまとめたとされる軍事思想。呉が行った激しい対外戦争の経験をもとに樹立したとされる。中国思想史に詳しい大阪大学大学院教授の湯浅邦弘(ゆあさ・くにひろ)氏に『孫子』の魅力を聞いた。

 

*  *  *

 

『孫子』は世界最古の兵書として知られ、さまざまな言語に翻訳され世界中で読まれている古典です。世界史においては、フランス皇帝ナポレオンや、ドイツ皇帝ヴィルヘルム二世なども『孫子』を読んでいたことが知られています。

 

日本に『孫子』が伝わったのは8世紀、遣唐使吉備真備(きびのまきび)が写本を持ち帰ったのが最初だと言われています。戦国時代の武将たちも『孫子』をよく読み、江戸時代には、荻生徂徠(おぎゅうそらい)など名だたる学者が注釈を付けるなど、さかんに研究が行われていました。

 

『孫子』は一般的に兵書と呼ばれていますが、実は、中身は哲学書だと言えます。哲学とは、「人間とは何か」を考える学問です。人間とは何かを考えるときの指標は、言葉、文化、生命などさまざまなものがありますが、その一つが「戦争」です。人類の歴史は、すなわち戦争の歴史とも言えるからです。戦争を考えるということは、人間とは何かを考えること。『孫子』が行ったのは、まさにそのことでした。

 

『孫子』の魅力をここで一つお伝えするならば、何と言ってもそれは、「役に立つ古典だ」という点です。『孫子』を読むと、今日からでも自分を変えられる、明日からでも組織を変えられる、そんな気持ちになることができます。『論語』や『老子』にも効き目はあるのですが、それはじわじわと効いてくるもので、即効性という意味ではやはり『孫子』に軍配が上がります。

 

『孫子』には、今すぐにでも私たちの仕事や人生に役立つような思想や言葉が、数多く書かれています。例えば、「拙速(せっそく)」という言葉を使い、「戦争が長引いていいことはない、戦争はできるだけ早く終わらせる方がよい」と説いています。私はこれを自分の仕事に引き付け、「仕事は早く終わらせる方がよい、締め切りは必ず守るようにする」という意味の座右の銘にしています。

 

事実、今中国の書店に行くと、『孫子』はたいてい三つのコーナーに置かれています。一つは哲学や軍事思想の棚、もう一つは会社経営に関する本の棚、三つ目に処世術の棚です。つまり、古典研究を行う人だけでなく、現代の厳しいビジネスの世界に身を置く人や、人生に迷い指針を求めているような人も、『孫子』を手に取っているのです。

 

■『NHK100分de名著』2014年3月号より

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