暮らし

土井善晴さんの「きれいな味」を生む清らかな布


2019.11.25

「料理で一番大事なのは手を洗うこと」と土井先生。塩むすびを握る前にも念入りに手を洗い、炊きたての熱々を、晒でさっとひと握りしてから、握りの工程に入る。塩むすびには、料理をおいしくする基本が詰まっている。撮影:宮濱祐美子

料理番組で伝説となった塩むすびを握るときや、だしをこすときにも、晒(さらし)をはじめとする布を使い分け、「きれいな味」を作る料理研究家の土井善晴(どい・よしはる)先生。また、布に造詣が深く、手仕事の布をこよなく愛し、そのワードローブは藍に染まっているとか。今回は、土井先生が日々触れる布についてお聞きしました。

 

*  *  *

 

塩むすびに欠かせない 固く絞った晒のふきん

 

炊き上がったばかりのごはんのにおいがあたりに広がります。晒ごしにひと握りされた、大きさもまちまちのおむすび。ほかほかと湯気が上がっています。

 

「昔のおばあさんは素手で握っていたんでしょうね、手を真っ赤にして。冷まして握ったらおむすびは絶対においしくならない、と分かっていたから。その熱々を握る道具が、晒ということです」

 

ラップなど便利なものがある時代。それでも晒を使うのはなぜでしょう?

 

「晒を使うのは清潔やから。だしをこすのも同じことです。おすまし、といいますが、汚したくない、きれいなままにしたいから晒を使うのです」

 

今、日本中の台所から、清潔さが失われていないだろうか、と土井先生は警鐘を鳴らします。食べるものの清潔さを守ることは、時に命に関わります。「きれい、きたない」は、日本人の倫理観そのものでしょう、とおっしゃいます。

 

人に左右されない美意識を身につける

 

「私は藍染が好きですが、昔から伝わるやり方で染めた藍の色は純粋。本当にクリアできれいな色です。その色を、きれいだな、と感じる自分を維持する努力をすることが大切じゃないですか」

 

料理番組でも、草木染(くさきぞめ)の布と料理を合わせてきた土井先生。おいしい味を求めて漬け物の名手を訪ねるのと同様に、美しい手仕事の布を守る作り手を、日本のみならず海外にも訪ねてきました。

 

「天然でしか美しいものはないんです。人工というのは、どこかしらに違和感を残すもの。自然が作るものに、きたない色は何ひとつないですよ。そこを自分で捉えることができたら、日常のすべてが美しいものだらけな世界になるはずです」

 

美の価値基準を自分の中に育てるには、目を磨くこと。本物をたくさん見て触れること。経験なくして美しいものは絶対に見えない、と土井先生。ふきんからはじめて、自然素材の布もまず自分で実際に使ってみるべきとおっしゃいます。

 

「和食は、季節・鮮度を尊ぶでしょう。美味はその瞬間にあるのです。それが自然からいただく、ということです。草木染も染め上げてから着ているうちに、常に色が変化する。その一瞬一瞬がすべて美しいのです」

 

自然とまっすぐ向き合う仕事は、自分の思惑通りにならないからおもしろいのです、と土井先生。まずは晒を毎日の料理に取り入れて、きれいな味を目指してみたくなりました。

 

■『NHK趣味どきっ!暮らしにいかす にっぽんの布』より

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