趣味

東京生まれの歌人、そうでない歌人


2013.10.20

2020年の五輪開催が決定し、東京に注目が集まっている。日本の首都である東京は短歌の題材としてもよく詠まれてきた。「未来」選者の佐伯裕子さんが、「東京」を詠った短歌を紹介する。

 

*    *    *

 

さきごろ、幻想的なイルミネーションに飾られて、新しい東京駅がお披露目されましたが、東京駅が開設されたのは一九一四年、ほぼ百年前のことです。駅舎は、明治政府の威信をかけた首都の象徴となり、鉄道の発達とともに都市化も急速に発展していきました。その初めの駅舎は、第二次大戦の東京大空襲により被害を受け、その後に異なる姿で復興されました。

 

また昭和三十年代までの東京は、下町、山手、郊外という区分がはっきりしていて、言葉遣いにも、それぞれ特徴があったのです。現在ではその境界は薄くなりましたが、東京に生まれ育った歌人と、そうでない歌人の歌には、微妙に違うものを読み取ることができます。

 

りんてん機、今こそ響け。

うれしくも、

東京版に、雪のふりいづ。

 

土岐善麿『黄昏に』

 

春(はる)の雪(ゆき)

銀座(ぎんざ)の裏(うら)の三階(さんがい)の瓦造(れんぐわづくり)に

やはらかに降(ふ)る

 

石川啄木『一握の砂』

 

『黄昏に』は明治四十五(一九一二)年、『一握の砂』は四十三(一九一〇)年に出版されています。善麿は東京の浅草に生まれ育って新聞記者をしていました。啄木は岩手県から東京に来て、やはり記者になったのですが、病気で長続きしませんでした。二首ともに、雪の降るある日の東京が活写されています。二人は友人同士で、三行に分けた文体も同じですが、どこかが違って読めるのです。

 

善麿の一首からは、いかにも自然に東京で働く日々が生き生きと伝わってきます。ことに新聞の「東京版」という呼び方には、日本の第一報といった誇りすら感じ取れるでしょう。それを「うれしくも」と、ごく自然に喜んでいます。一方、啄木の一首には、東京の文化の中心としての「銀座」、さらには「煉瓦造」という西欧の匂いへの思いが読み取れます。都市への憧憬の淡い寂しさを、春の雪が引き立てているようです。東京に寄せる二人の思いの違いは、やがてさまざまな東京の歌の原型になっていきました。

 

■『NHK短歌』2013年10月号より

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