趣味

秋の季語「新酒」を味わう


2013.10.04

その年の新米でつくられた酒を「新酒」と言う。酒をたしなむ俳人たちが詠む新酒の句からは、その色や喉ごし、酔い心地さえも伝わってくるようだ。「澤」主宰の小澤 實(おざわ・みのる)さんが解説する。

 

*    *    *

 

「新酒」はこの秋に収穫された新米で醸造(じょうぞう)した酒です。現在、商業用の酒は寒中に醸造することが多いのですが、冬の季語にはなっていません。神前に供えて、秋の稔(みの)りを神に感謝する思いが、強く含まれている季語であるからでしょう。

 

身体であじわう季語としては、まず眼で透明度や液体の色を確かめます。同時に鼻で液体から上る香りを確認します。

 

しかも本(もと)の水にはあらぬ新酒かな

惟中(いちゅう)

 

新酒は原料の水と同じように澄んでいます。その上で、原料の水とは違い、匂いや味わいを含んでいるというわけです。この句は新酒そのものを詠(よ)んでいます。惟中は江戸時代、芭蕉(ばしょう)と同時代に活躍した俳人です。

 

見たり、嗅(か)いだりした後、新酒を口に含みます。しばらく含んだ後、おもむろに飲みおろします。舌の上からのどの奥までで、芳醇(ほうじゅん)な液体をじっくりと吟味するのです。

 

喉(のど)をゆくときに音あり新走(あらばし)り

今瀬剛一(いませ・ごういち)

 

「新走り」は新酒の別称です。新酒が喉を過ぎる時に音がしたというのです。ちびちび舐(な)めるように飲んでいたのでは、音はしないでしょう。一口にかなりの量を飲みおろした感じがありますね。音で含んだ新酒の量を捉(とら)えています。

 

日本酒は徳利や片口に入れ、盃やぐいのみに注ぎ分けます。掌や指先で感じる重さや手触りも、重要な要素です。

 

憂あり新酒の酔に托すべく

 夏目漱石(なつめ・そうせき)

 

憂鬱で心がふさいでしまっています。新酒を飲んで、その憂鬱を新酒の酔いに預けてしまおう、というのです。憂いを托してしまって、消えるのを待っているわけですね。

 

実際に新酒が製されるのは寒であるという現実があるせいでしょうか。現在、あまり詠まれない季語です。もったいないです。今回取り上げた句はすべて一物仕立(いちぶつじた)てでした。この季語で取り合わせに挑戦してみるのもおもしろいと思います。

 

■『NHK俳句』2013年10月号より

 

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