趣味

杉内寿子八段が「電気に打たれた」瞬間とは


2013.10.01

杉内寿子八段。撮影:藤田浩司

碁界に4人しかいない女流棋士八段の1人であり、女流最高齢棋士(86歳)として現役で活躍する杉内寿子(すぎうち・かずこ)八段。夫君は現役最高齢棋士の杉内雅男(すぎうち・まさお)九段(92歳)だ。2人の馴れ初めを、杉内八段が懐かしく振り返る。

 

*    *   *

 

15歳で入段したのが昭和17年で、19年には二段に昇段したのですが、このころから戦争が激しくなって手合も中止に、男性の棋士は出征したりしました。東京への空襲が激しくなったため、私も千葉に疎開するなど、数年間は碁から離れざるをえない状況が続いたのです。

 

終戦して対局が再開されたときの喜びは本当に大きく、このときほど碁に打ち込んだ時期はありません。だからでしょうか、昭和23年に三段、24年には四段へ相次いで昇段し、大手合でも優勝するなど、非常に成績もよかったのです。

 

そうした中で、私は杉内と出会ったのですが、初めて会ったとき、私はまだ二段だったと記憶しています。杉内は復員服というのを着て、痩せこけて青白い顔をしていました。戦地で身体を壊し、それで復員してきたそうですが、碁盤の前に座っている姿がなんとも不思議と言いますか「変わった人だなぁ」という印象がありました。というのも碁を勉強している姿を見ていると、周りの人がまったく目に入っていないというか、完全に碁に集中しているというか…。

 

今になって思えば、碁に魅入られている杉内のそうした姿に、私は何かひかれるものがあったのかもしれませんが、とはいえ初めから杉内のことを意識していたわけではありませんでした。あるきっかけで妹の幸子(すでに入段していた)とともに碁を教わるようになってからも、それは同様でした。

 

そうした中で、私が三段に昇段したのですが、その後に日本棋院で杉内とばったり会ったんですね。そのときに杉内が、私の横を「おめでとう」と言って、さっと通り過ぎていったんです。このときに私は、電気に打たれたようになってしまって、これが原因でどうも私は、杉内を意識するようになったようです。これは杉内にも話していませんけど…。

 

で、やがて杉内とお付き合いをするようになったのですけど、父が「五段になるまでは結婚は許さない」というほどではないにしても、そのような思いを持っていたことは分かっていました。私自身としても「五段」は念願でしたから、結婚はちょっと待って碁に専念しました。

 

そして昭和28年、ついに五段に昇段できたのですが、うれしかったというより「父の思いを実現できた」というホッとした気持ちの方が大きかったことを覚えています。父は私に何も言いませんでしたが、後に母から聞いたところによると「これで自分は死んでもいい」と言ったとか…。こういう経緯で、私は、晴れて杉内と結婚することができたのです。

 

■『NHK囲碁講座』2013年9月号より

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