趣味

夏から秋へ……うつろう季節を着物の季語で感じる


2013.09.22

残暑厳しい9月でも、暦の上ではもう秋。着物も種類ごとに季語として歳時記に複数収録されている。「草樹」会員代表の宇田喜代子(うだ・きよこ)さんが、夏と秋、二つの季節に用いられる着物を詠んだ句を紹介する。

 

*    *    *

 

日常を和服で過ごさなくなってもう随分(ずいぶん)になります。洋服というものを着たことのない明治生まれの祖母、第二次世界大戦後ようやく夏だけを洋服で過ごしていた大正生まれの母、そんな環境であったせいか、若いころ、私もかなりの和服党でした。ところが洋服の動きやすさや、手入れの簡単なことなどに慣れてきますと、ついつい洋服一辺倒(いっぺんとう)になってしまい、和服を着ることが少なくなってしまいました。

 

着るまへの束の間ほせし袷(あわせ)かな

原 石鼎(はら・せきてい)

 

セルを着て村にひとつの店の前

飯田 龍太(いいだ・りゅうた)

 

芥子(けし)も一重衣も単(ひとえ)風渡る

松本(まつもと)たかし

 

羅(うすもの)に衣(そ)通る月の肌(はだえ)かな

杉田久女(すぎた・ひさじょ)

 

日没ののちの八重山上布(じょうふ)かな

黒田杏子(くろだ・ももこ)

 

祭浴衣老獪(ろうかい)にして汗かかず

行方克巳(なめかた・かつみ)

 

袷、セル、単衣(ひとえ)、羅、上布、浴衣、などは、歳時記の夏の部の季語として採用されている「夏の和服いろいろ」です。これらを時や場所に応じて着用します。

 

当節では、地域差、空調設備の有無、個人の好みなどに応じて、いろいろにあった約束や規制が無視されるようになりました。かといって、暑いから五月一日に羅で出かけたり、昼下がりの会議に浴衣で出たりして、それをファッションの自由だというのも、けじめのないことです。いくら上等でも「浴衣」や「ネル」で正餐(せいさん)の席には出られません。

 

現代の暮しのなかに残っている「更衣(ころもがえ)」の約束では、旧暦四月一日から端午の節句までは「袷」、八月までは帷子(かたびら/単衣のものから上布など)、重陽の節句の九月九日からが「袷」。新暦採用の明治以降、この約束を合理化して官庁、学校などの制服は、六月一日から夏服、十月一日から冬服ときめたのです。和服も春の袷を「春袷」、秋の袷を「秋袷」と呼んでいます。その日どりはかつてほどきっちりとはしていなくて、秋、冬、春が袷、その程度の分け方で、日どりよりは布の素材、色、柄などのほうを重んじています。

 

おおよその目安は、九月に入り大気が爽やかになれば袷がふさわしくなります。これが「秋袷」です。「後の袷」という言い方もありますが、日常の言葉としても、句作にも仰々し過ぎます。

 

秋袷になれば、付属の小物などがすべて夏から秋にかわることも、和装の楽しみの一つです。

 

つゝましや秋の袷の膝頭(ひざがしら)

前田普羅(まえだ・ふら)

 

「膝頭」にその人の暮しぶり、つつましい人となりなどがよくでています。立ち居のたびになにかに触れたり擦れたりする着物の膝は、他の部分以上にいたみます。それをうまく部位交換して傷みをかくすのも、和服世代の女性たちの始末のしどころでした。この始末という言葉を現代風に言い換えれば「ものを粗末にしない」でしょうか。着物としては着られなくなっても、飴(あめ)の包み紙ほどのサイズの残布(ざんぷ)は継(つ)ぎ接(は)ぎして小物をつくったり、果てはお手玉にしたりして、織物を捨ててしまうということはまずありませんでした。

 

 

■『NHK俳句』2013年9月号より

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