趣味

タブーを破り「出産」を詠った与謝野晶子


2013.09.10

「塔」主宰の永田和宏(ながた・かずひろ)さんが、人生における一場面を切り取った歌を取り上げて解説する『NHKテレビテキスト 短歌』の連載「時の断面——あの日、あの時、あの一首」。9月のテーマは女性が詠む「出産」だ。

 

*    *    *

 

出産は、最終的には女性の側のものであり、いかに主体的に関わろうとも、男性はおたおたするばかりで、女性に対しては分(ぶ)が悪い。それに対して、女性はいかにも自信に充ち、威厳に充ちているようにさえ見えます。

 

悪龍(あくりよう)となりて苦(くるし)み猪(ゐ)となりて啼かずば人の生み難きかな

与謝野晶子『青海波(せいがいは)』

 

与謝野晶子は生涯に十二人の子を生み、ひとりは生後すぐ亡くなりましたが、先妻の子を含め十二人の子を育てました。昔は、たしかに兄弟だけで野球チームができるなどという家もありましたし、現在に較べれば遥かに多産ではありましたが、それにしても凄いエネルギーだと思わないわけにはいきません。晶子の旺盛な執筆、文学活動をいっぽうに置いてみれば、なおのことそのエネルギーに圧倒される思いがします。

 

この一首は、歌集『青海波』中の一首。歌集『青海波』にいたって晶子は初めて出産を正面から詠おうと決心したようです。古典和歌は言うまでもなく、近代短歌においてもそれまで出産をひとつのテーマとして詠った例はありませんでした。その一種のタブーに正面切って挑戦しようとしたのが、『青海波』における二十六首からなる、出産の歌の一連です。時に晶子三十三歳。六度目の出産でした。

 

この一首には明確な晶子のメッセージがあります。晶子自身の文章を借りれば、

 

「妊娠の煩(わずら)い、産の苦痛(くるしみ)、こういう事は到底男の方(かた)に解るものではなかろうかと存じます。女は恋をするにも命掛です。しかし男は必ずしもそうと限りません。(略)産という命掛の事件には男は何の関係(かかわり)もなく、また何の役にも立ちません。(略)国家が大切だの、学問がどうの、戦争がどうのと申しましても、女が人間を生むというこの大役に優(まさ)るものはなかろうと存じます。(略)

 

私は産の気が附いて劇(はげ)しい陣痛の襲うて来る度に、その時の感情を偽らずに申せば、例(いつ)も男が憎い気が致します。妻がこれ位苦んで生死(しょうじ)の境に膏汗(あぶらあせ)をかいて、全身の骨という骨が砕けるほどの思いで呻いているのに、良人(おっと)は何の役にも助成(たすけ)にもならないではありませんか。」(『産屋物語』)

 

となるでしょうか。ここから女性の尊厳、権利などの問題に発展するのですが、ここでは晶子のこのはっきりした物言いの爽快さをまず味わっておきたいものです。そして男の側としては、たじたじとならざるを得ない、その物言いの迫力を。

 

■『NHK短歌』2013年9月号より

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