趣味

俳句史に革命を起こした正岡子規、その壮絶な病床の記録


2013.08.31

イラスト:川名京

 

『NHKテレビテキスト 俳句』での連載「楽しく学べる 俳句の歴史」は、俳句の歴史をコンパクトに、かつ平易にまとめた読み物として人気を集めている。この連載の著者である作家・評論家の村上護(むらかみ・まもる)さんが急逝された。心からのお悔やみを申し上げると共に、最後の原稿となった8月号「『病床六尺(びょうしょうろくしゃく)』の子規の世界」から一部をご紹介する。

 

*    *    *

 

俳諧(はいかい)は二人以上で催もよおすものです。長句(ちょうく/五・七・五)と短句(たんく/七・七)を繰り返し、三十六句(歌仙【かせん】)、五十句、百句、千句などにまとめたものです。江戸以前はこれが主流で俳諧の宗匠たちは弟子を指導することをなりわいにしていました。子規はそれを否定して、俳句は文学なり、連句は文学に非ずと(『獺祭書屋俳話(だっさいしょおくはいわ)』明治二十五年)書いております。これまでの主流は最初の五・七・五(第一句)を中心とする発句(ほっく)でしたが、これを否定すればどうなるでしょう。二人以上でやる連句は終わりをつげ、一句独立して作られるようになる俳句になったのです。子規の俳句革新運動において画期的業績だと思います。俳句の新時代にふさわしい、新しい幕を開いたのです。子規の提唱によって俳諧はすたれ、子規以後は名称も「発句」といわず「俳句」とよばれるようになったのです。

 

子規は精神的に意欲満々でしたが、病勢は悪化の一途をたどっていました。脊椎(せきつい)カリエスにより腰部に脊髄炎(せきずいえん)を併発(へいはつ)して歩くのも思うにまかせません。明治二十九年四月にはほとんど歩くことができなくなりました。外出は人力車に頼(たよ)るほかなく、それも上野界隈(かいわい)をひとまわりするのがせいぜいです。外出は明治二十九年が七回、明治三十年は手術したため外出の記録がほとんどありません。明治三十一年には七回、明治三十二年には隣の陸(くが)家へ人に負われていった外出まで入れて十一回、明治三十三年は二回だけで、以後は家から一歩も出ておりません。いわゆる「病牀六尺(びょうしょうろくしゃく)」の世界となるのです。

 

その著『病牀六尺』の巻頭で、子規は次のように書いています。

 

「病牀六尺、これが我世界である。しかもこの六尺の病牀が余(よ)には広過ぎるのである。僅(わず)かに手を延ばして畳(たたみ)に触れる事はあるが、蒲団(ふとん)の外へまで足を延ばして体をくつろぐ事も出来ない。甚(はなはだ)しい時は極端の苦痛に苦しめられて五分も一寸も体の動けない事がある。苦痛、煩悶(はんもん)、号泣(ごうきゅう)、麻痺剤(まひざい)、僅かに一条の活路を死路の内に求めて少しの安楽を貪(むさぼ)る果敢(はか)なさ、それでも生きて居ればいひたい事はいひたいもので、毎日見るものは新聞雑誌に限つて居れど、それさへ読めないで苦しんで居る時も多いが、読めば腹の立つ事、癪(しゃく)にさはる事、たまには何となく嬉しくて為に病苦を忘るるような事がないでもない。年が年中、しかも六年の間世間も知らずに寝て居た病人の感じは先づこんなものですと前置きして」(岩波文庫より引用)と書いております。引用が長くなりましたが、自身の晩年の状態をつぶさに記した重要な一文です。

 

 

■『NHK俳句』2013年8月号より

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