趣味

この世とかの世を含む初秋の季語「送り火」


2013.08.26

季語の中には時間が含まれているものがある。盆の行事のひとつである「送り火」は、初秋の夕方から夜の季語として歳時記に収録されている。「澤」を主宰する俳人の小澤實(おざわ・みのる)さんに「送り火」を詠んだ句を解説していただく。

 

*    *   *

 

「送り火」は盆の行事のひとつ。盆の終る夜に、門口で苧殻(おがら/麻の皮を剝いだ茎を干したもの)などを焚(た)くのです。「身体」であじわう季語としては、まずは手と目とを使っています。門口に苧殻を据え、ライターやマッチ、燃やした線香などで点火します。鼻は煙の匂いを嗅(か)ぎますね。盆の間、この世に戻ってきていた先祖の精霊を彼岸へと送る火です。送り火によって、精霊の帰り道を明るくして、帰りやすくするのです。ですから、手と目と鼻だけではなく、身近な死者を深く思うこころが重要になってくる季語と言ってもいいでしょう。

 

いとせめて送火明く焚きにけり

長谷川零余子(はせがわ・れいよし)

 

送り火は、死者を送る火です。霊を迎える迎え火よりも寂しい火だけれど、せめて明々と焚きたいというわけです。太古の時代よりこのような思いで、焚かれてきました。日常の用の火ではない、死者の世界まで照らす火です。

 

送火や母が心に幾(い)く仏(ほとけ)

高浜虚子(たかはま・きょし)

 

母とともに送り火を焚いています。母が何人かの死者の話をしているのでしょうか。それともただならぬ気配で感じ取っているのでしょうか。この句の主体は、作者虚子の少年時代とほぼ重なるような存在でしょう。主人公はまだ人の死を経験していないのかもしれません。

 

句形は取り合わせのように見えますが、送り火をしている母のこころを詠(よ)んでいるので、一物仕立(いちぶつじた)てと考えた方がいいと思います。「送り火」の句に取り合わせの句は、みつけられませんでした。この季語そのものの中にこの世とかの世、ふたつの世界を含んでいるからかもしれません。

 

 

■『NHK俳句』2013年8月号より

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