趣味

渡辺明は谷川浩司の再来なのか


2013.08.01

写真:藤田浩司

渡辺明竜王は小学生の頃から『谷川浩司全集』を片手に棋譜を並べ、谷川九段の「一直線に勝つ技術」を学んだという。

 

谷川九段自身、渡辺竜王との共通点に「攻め将棋であること」を挙げている。また、羽生善治三冠も以前、「渡辺さんの将棋は谷川さんに似ていると思います。二人とも自分の基準を持っていて、大胆に読む手を切り捨ててくるんです」と語っていた。

 

渡辺明とは、谷川浩司の再来なのだろうか——?

 

渡辺竜王の優勝で幕を閉じた第62回NHK杯テレビ将棋トーナメントで決勝観戦記を担当した山岸浩史氏が、インタビューを通してその強さの秘密に肉迫する。

 

*    *    *

 

しかし、ここで読者も疑問に思われるだろう。渡辺が谷川の再来なら、谷川があれだけ苦しめられた羽生に、なぜ渡辺は勝てるのか、と。そう、それこそが最大の謎なのだ。

 

私見ではあるが、羽生が谷川を破る典型的なパターンは、谷川が切り捨てた手の中から羽生がその特殊能力によって正解を拾い上げる、というものだったと思う。七番勝負なら1度や2度生じる、「異筋の正解」という例外を拾うことで結果的に羽生は谷川を圧倒し、それを見た羽生世代やさらに若い棋士たちに「あらゆる手に可能性がある」ことを思い知らせたのではないだろうか。

 

だがその将棋界でいま、羽生と羽生世代に対して戦果をあげつづけているのは、谷川に「先祖返り」したような渡辺だけなのだ。ただ渡辺自身は谷川と羽生を比べると、違いよりも共通点のほうに目が向くようだ。

 

「二人ともオーソドックスですよね。僕の将棋がオーソドックスになったのも、子どものころから二人の将棋を見てきたからです」

 

——オーソドックスな将棋とは?

 

「基本的に居飛車党で、戦型に偏りがないという意味です。中盤からは、プロならば誰が指しても大きな差はありませんから」

 

——羽生さんの強さはどのようなところにあると思いますか?

 

「自然に、普通に指して、いつのまにか勝ってしまうところです。子どものころ、羽生さんからはそこを盗みたいと思っていました」

 

渡辺には、羽生が「異筋」を拾う棋士であるとの認識はあまりないようだ。

 

——しかし2008年の竜王戦第1局で、居飛車穴熊に固めて快調に攻めていたはずの渡辺さんが羽生さんの薄い右玉に完敗したように、思いもよらない将棋観をぶつけてこられることもあるのではないでしょうか?

 

「たしかに羽生さんとの将棋ではそういうことも多いですね。思いもよらない指し方に弱いのは、自分の弱点の一つだと思っています。直せるものなら直したいけど、ではどうすれば直るのか。経験を積めば直るのか。『例外』には経験も役に立たないとすれば、直らないのかもしれません。やはり、基本は読みです。読みによって、細部を埋めていくしかない」

 

切り捨てることで生じる「死角」は気にせず「読み」で勝負する。それが渡辺の対羽生戦におけるスタンスなのかもしれない。

 

だが、谷川とて「読み」にかけては羽生に引けをとらなかったはずだ。すると、谷川と渡辺の対羽生戦成績の違いは、渡辺のほうが「死角」が少ないからなのだろうか。谷川に、自分の将棋と渡辺の将棋はどこが違うと思うか、聞いてみた。

 

「たとえば序盤から大乱戦になる変化とか、定跡と少し違う展開とか、どうなるかわからないからやってみようと相手に誘われたときに、私や羽生さん、佐藤(康)さんなら、せっかくだから乗ってみるか、あるいはやめておくか、30分は考えることが多いんですが、渡辺さんは少考で、あっさりスルーしてしまうんです(笑)」

 

次回はこの谷川の話を補助線に、渡辺明の謎にさらに迫っていきたい。渡辺から聞けた言葉のなかに、もしかしたら謎を解くカギがあるような気がいまはしているのだが…。

 

※次号に続く

 

■『NHK将棋講座』2013年7月号より

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