趣味

短歌にうたわれてきた「結婚式」


2013.06.04

「ジューンブライド」という言葉があるように、6月には結婚式が多く行われる。「冠婚葬祭」の中で最も華やかな儀式である結婚式は短歌のなかでどのようにうたわれてきたのだろうか。「式そのものがうたわれている短歌は意外に少なく、恋愛や結婚そのものをうたった作品のほうが多いようです」と話す「未来」選者の佐伯裕子さんに、結婚式にまつわる短歌を紹介してもらった。

 

*  *  *

 

珍しい祝電の祝婚歌を紹介します。一九四〇年、土屋文明が近藤芳美、とし子に宛てた歌です。文明は二人の歌の師でした。二人は、戦争になだれていく日々、困難の果てに朝鮮半島の京城で式を挙げました。その際の祝婚歌として文明は、片歌の五七七をそれぞれに電報で送り、二つ合わせて一首の旋頭歌(せどうか/五七七五七七)となるようにしました。なんとも粋なお祝いをするものです。旋頭歌は、五七七五七七の六句からなる古い形式の歌で、『万葉集』でもお馴染みです。

 

春早く咲き出づる花も共につみてば   (近藤芳美宛)

うれしさの數を云はむに花に早きかも   (とし子宛)

                                土屋文明 電報・1940年2月18日

 

二つ合わせて一首。早春の花を二人で摘めば、その嬉しさの数は花よりも多く溢れるばかりであろう、という内容です。文明は、のちに、「歌をやめ結婚の幸福にをる話いくつも聞くは楽しかりけり」(『青南集』一九六七年)とうたっています。結婚をして家庭を築く幸福というものに、大きな信頼を寄せているようすがうかがえます。

 

嫁(ゆ)く吾れに多くやさしき心づけの集りし夜の菊の静けさ

馬場あき子『早笛』

 

昭和三十(一九五五)年に出版された歌集です。戦後のまだまだ貧しかった日本のつつましい結婚式が想像されてきます。この一首の特色は、「心づけ」という温もりのある言葉にあります。ご祝儀のことですが、何と優しい言葉でしょうか。周囲の人々が精一杯に届けてくれたご祝儀に対して、こころ動かされているのです。人間の温かさに焦点があてられた結婚式の歌、「夜の菊」が静粛な雰囲気を与えています。

 

我が為に花嫁の化粧(けはひ)する汝を襖の奧に置きて涙出づ

葛原繁『蟬』

 

同じ一九五五年に出版された一冊です。やはり、つつましい懐かしさに満ちた歌といえましょう。「我が為に」というところ、男性の眼差しがつよく出ているのではないでしょうか。結婚にいたるまで、さまざまなことがあったに違いありません。その得難い彼女が、「我が為に」「襖(ふすま)の奧」で花嫁の仕度をしているようすに、手作りのつつましい結婚式が想像されます。

 

■『NHK短歌』2013年6月号より

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