趣味

終生独身を貫いた小堀清一九段の将棋一筋の人生


2013.05.20

小堀清一九段
写真提供:日本将棋連盟

小堀清一九段は「将棋学徒」と呼ばれるほど研究熱心、無類の将棋好きで、まさに将棋一筋の人生を送った。河口俊彦少年が入門したころの将棋界は個性的な棋士ばかりで、その棋士を見るのがおもしろくて将棋会館に通ったと言う。

 

2002年に現役を引退し、将棋界や棋士についての文筆で活躍する河口七段が、師匠である小堀九段の在りし日に思いを馳せる。

 

*  *  *

 

どのくらい将棋が好きだったかをあらわすエピソードは数限りないが、そのうちのいくつかを書き留めておく。

 

先生がA級のころの名人は大山康晴。当時は岡山に住み、対局のたびに東京に来ていたが、交通が不便な時代だったので、頻繁に行き来することができず、東京に出たときは、数か月熱海の旅館に滞在し、そこで対局をこなした。

 

つまり大山と対局する棋士は、タイトル戦以外の場合、熱海に出かけたのである。当時の名人の日常はそのくらい優雅なもので、特権階級と言えた。だから私などは、大山が対局しているのはもちろん、姿を見ることもできなかった。

 

そんなとき小堀先生は、大山に将棋を教えてもらおうと、熱海まで押しかけて行った。もちろん約束なしにである。

 

このとき望みどおり一局指せたかどうかはわからない。この話を聞いて以来、大山が断っただろうと思っていたが、この稿を書いている今は、大山もしかたなく指したような気がする。

 

この話は、記録係をしていたとき、棋士たちが「あきれたものだ」と噂うわさ話をしているのを聞いて知った。

 

そのころの大山は、常宿の美しい娘さんとよい仲になり、まるで新婚気分である、との噂があった。これが後年、スキャンダラスな小説を書かれる原因になった。

 

小堀先生は、そんなプライベートな部分は気にもかけない。男女関係の機微などには、まったく無知であった。だから終生独身だったが、先生のファンや周囲の人が、縁談の話をいくつか持ち込んだこともあった。先生は数回お見合いをしたらしいが、縁がなかった。あるとき「妹が二人いるんでね」と先生がつぶやいたのを聞いたことがある。

 

そんなこともあって、先生の日常は世事に煩わされることのない、将棋一筋の人生を送ることになった。

 

■『NHK将棋講座2013年5月号』より

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