趣味

万葉集で最も多く詠まれた花、ハギ


2020.09.22

滋賀県長浜市神照寺(じんしょうじ)に咲くツクシハギ。枝がしなやかに垂れ、花は遠くからでは白っぽいピンク色に見える。1352年、室町幕府初代将軍の足利尊氏が弟の直義(ただよし)との和解のために同地を訪れたときにハギを植えたのが由来といわれる。約1500株のハギが群生する 撮影:伊藤善規

万葉人が野に出て愛で、歌に詠んだ花々から、日本独自の植物文化を見つめ直す連載「万葉の花」。今回は「秋の七草」の一つで、『万葉集』で最も多く詠まれた花・ハギの謎に迫ります。講師は進化生物学研究所理事長兼所長の湯浅浩史(ゆあさ・ひろし)さんです。

 

*  *  *

 

日本花園芸の原点

 

ハギは「秋の七草」の筆頭にあげられ、各地で催される「萩祭り」や「萩寺」など親しまれています。アメリカや中国などにも分布しますが、日本以外ではまず栽培されることはありません。

 

日本人とハギの関わりは、万葉時代にさかのぼります。そこで歌われているハギの習俗を読み解けば、日本の花園芸の原点、「万葉園芸」が浮かび上がってきます。

 

ハギにはいろいろな種類がありますが、現代、栽培されている主流はミヤギノハギです。万葉人が詠んだハギはどんな種類だったのでしょうか。

 

秋の花見はハギで

 

『万葉集』には160種類以上の植物が歌われています。そのなかで、ハギは141首が歌中に、1首(巻第八・一五四八)は題詞に記されていて、合計142首が詠まれています。これはウメの119首より多く、万葉第一の花です。

 

一方で詠み人の名はウメの歌が4分の3でわかるのに対し、ハギでは4割ほどしかわかりません。つまり、ウメは上流階級、ハギは庶民に好まれた花だったのです。

 

現在では、花見というとサクラのみが思い浮かびますが、『万葉集』ではサクラの花を愛でてはいるものの、花見の表現はありません。花見で歌われている植物は、春のウメと秋のハギのみです。

 

「秋風は涼しくなりぬ馬並(な)めていざ野に行かなはぎの花見に」

(巻第十・二一〇三)

 

この歌から男性が馬で連れ立って野へ、ハギの花見に出かけたことがわかります。

 

万葉人の愛したハギの種類は?

 

『万葉集』のハギの歌で、野外の地名を伴うのは31首。そのうち、場所を特定できない4首を除く27首中の21首、つまり8割が現在の奈良県の地名です。うち高円(たかまど)が7首、春日野(かすがの)が2首、ほかの12首は百済(くだら)野や明日香(あすか)川の丘など、それぞれ1首ずつが詠まれています。

 

『万葉集』のハギの種類は一般にヤマハギとされていますが、西日本ではヤマハギは500mを超す山や高原に行かないとまず見られません。山麓、低山、野原や道端に生えているハギは、ツクシハギ、マルバハギ、そしてニシキハギの原種のビッチュウヤマハギです。奈良県は高円山(たかまどやま)でも432mの高さにすぎません。場所がわからない歌のなかにヤマハギが含まれるとしても、少ないでしょう。

 

ハギは日当たりを好み、森林では育ちません。人手が加わった開けた場所に多く、『万葉集』でも野が25首、野辺が14首、原が3首、丘が三垣(みかき)の山(甘橿〈あまかし〉の丘)を入れて4首詠まれているのに、山は山辺が1首と生駒山(いこまやま)のみです。

 

■『NHK趣味の園芸』連載「万葉の花」2020年9月号より

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