趣味

糸谷哲郎八段、学業と対局の両立


2020.07.18

撮影:河井邦彦

平成の将棋界はどのように動いてきたのか。平成の将棋界をどうやって戦ってきたのか。勝負の記憶は棋士の数だけ刻み込まれてきた。連載「平成の勝負師たち」、2020年6月号は糸谷哲郎(いとだに・てつろう)八段が登場する。

 

*  *  *

 

糸谷哲郎は1988年10月生まれ。翌年1月に元号が「平成」に替わる、ぎりぎりの昭和生まれだ。彼の歩みは、平成の将棋史と重なるものがある。

 

「自分の歩みですか? インターネットを見ないとわからないです。えーっと、1998年に奨励会入会です。奨励会の思い出は……そうですね、3級で例の反則(年表参照)をしました。2006年に四段昇段。同年に新人王戦優勝。表彰式で『将棋界は斜陽産業』と言ってたたかれる。あ、今回は私の黒歴史を暴くコーナーではないですか。ふふふ」

 

学業と対局の両立

 

糸谷は広島市出身で、同郷の先輩に村山聖九段、山崎隆之八段、片上大輔七段がいる。7歳上の山崎八段や片上七段には通った広島将棋センターでかわいがられていたが、もう一世代離れた村山九段とも接点がある。

 

「『指した』ということしか覚えていませんが、村山先生の指導対局を受けたことがあります。村山先生が亡くなった年の9月に奨励会に入りました。一次試験が3勝3敗、二次試験が1勝2敗と合格ラインぎりぎり。二次試験の1勝も、本来なら勝てない相手にラッキーな内容で勝ちました。受かる実力じゃなかった証拠に、6級から2年上がれなかった」

 

プロ入りするまで、奨励会は広島から通った。高校3年生の1年間は受験勉強と対局を両立する日々。大阪大学に進学すると、糸谷は大学に近い大阪府箕面市に転居し、ひとり暮らしを始める。箕面は糸谷の第二の故郷になった。後に糸谷が竜王を獲得すると、箕面市の市長表彰を受けている。

 

大学では将棋部に所属した。「広島学院中学校・高校の主将をやっていた先輩が、阪大将棋部にいたのでお誘いいただきました。活動にはほとんど参加できませんでしたが、今でもつきあいのある部員はいます」

 

2011年には大学院に進学する。この少し前からNHK杯での2年連続準優勝、順位戦でC級1組に昇級するなど、安定した成績を挙げるようになった。

 

そして2014年には竜王獲得。挑戦者決定戦で羽生善治名人、七番勝負で森内俊之竜王と、当時のトップ棋士を連破する快進撃だった。

 

「挑決は誰も私が羽生先生に勝つと思っていないくらいの逆風でした。そういえば第3局は山崎さんの結婚式と重なっていました。初めから師匠(森信雄七段)以外、呼ばれていないですけど。

 

竜王になって公務が増えました。タイトルホルダーとしてしっかりと将棋に取り組まないといけないという思いもあって、大学院は休学しましたね。翌年に渡辺先生(明・現三冠)に負けて失冠したのは実力です。でも王将戦の挑戦者決定リーグに入ったり、順位戦でB級1組に上がったりして、結果を残せるようにもなってきました」

 

大学院の博士前期課程は通常は2年で修了するが、糸谷は休学も含めて6年かけて修了した。

 

「大学院を修了する前年、王将リーグが4勝2敗の同星で、渡辺先生とプレーオフになったんですよ。プレーオフの対局が12月の初め。修士論文は1月の初めに出さないといけませんでしたから、さすがに諦めていました。でもプレーオフが終わったら『まだ頑張れば間に合うよ』と言われて……。そこから1か月で必死になって修士論文を仕上げました。資料は読み進めていたので、完全に諦めていなくてよかったです」

 

修士論文を提出した1年後、糸谷はB級1組で初戦から8連勝し、2局を残してA級入りを決めた。

 

※肩書はテキスト掲載当時のものです。

※続きはテキストでお楽しみください。

 

■『NHK将棋講座』連載「平成の勝負師たち」2020年6月号より

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