趣味

行方尚史九段と木村一基王位 


2020.04.11

撮影:河井邦彦

平成の将棋界はどのように動いてきたのか。平成の将棋界をどうやって戦ってきたのか。勝負の記憶は棋士の数だけ刻み込まれてきた。連載「平成の勝負師たち」、2020年3月号には行方尚史(なめかた・ひさし)九段が登場する。

 

*  *  *

 

祝杯I

 

令和元年冬、夜の酒場にて。

 

「九段昇段、おめでとうございます」

 

「ああ、ありがとうございます」

 

「あのときの行方さんの言葉、しびれましたよ」

 

「え、何でしたっけ」

 

「昇段を決めた直後に『木村(一基)王位の最年長初タイトル記録を抜く可能性のある棋士は自分しかいないと思っている』って。あの言葉は、ちょっと普通の棋士には言えない」

 

「ああ…質問されたから言ったまでです。あのくらい言わなきゃダメでしょ」

 

「同学年、同期の新王位の誕生をどんな思いで見つめていたのでしょうか」

 

「対局前夜でしたけど、画面越しにヒヤヒヤしながら断続的に見てて。最後は本当に勝っちゃったんだな、先に行かれちゃったな、という悔しさは当然ありました。でも…うれしかったんです。物語を失い始めた時代に、物語を持った木村君がガツンとやってくれた。痛快でした。一気に飲み込まれても不思議じゃない時代に木村君は適応した。あの豊島さん(将之竜王・名人) を泥沼に引きずりこんだ。あっぱれです」

 

「平成8年に同学年の三浦さん(弘行九段)が羽生善治七冠から棋聖を奪ったときとは当然違うものでしょうか」

 

「あの日、鳩森八幡神社のお祭りで指導対局をしてて…三浦君が獲ったって帰りに聞いて『次は自分の番だ』としか思わなかったような…。全然違いますよね。もう23年前か…。あの時はまだ生まれてなかった人たちと指すようになってるんだからね。何もかも変わりました」

 

「出会った日の木村さんの記憶って覚えていますか?」

 

「小学5年生のとき研修会入会試験で受験者同士指したのが『千葉の木村君』でした。やたら響く声してるなって(笑)。木村君の振り飛車に急戦で挑んで負けた記憶があります。うわ、もう35年前か…。23年どころじゃないね」

 

「翌年の小学生名人戦に2人とも出ていました」

 

「木村君がベスト8で負けた子と僕が準決勝で当たったんです。よし見てろよ、と思ったけど50手くらいで粉砕されました。やばい、角換わりだ、青森じゃ矢倉をやってくる奴しかいないのに、どうしよう…って。で、もっと不慣れな石田流に構えて、まったく将棋にならなかったなあ(笑)」

 

「先に三段になったのは木村さんでしたが、4年も早く四段になったのは行方さんでした」

 

「三段になっても向こうが格上だと思っていたけど、二度目の対戦で勝てた。すごく自信になりましたね。そのころから1対1の練習将棋をやるようになって、27歳か28歳くらいまで続いたのかな? 順位戦で一緒にA級に上がったり、お互いの祝賀会では目隠し将棋をしたり…。彼とのくされ縁(笑)はずっと続いていますかね」

 

文:北野新太

 

※肩書はテキスト掲載当時のものです。

※続きはテキストでお楽しみください。

 

■『NHK将棋講座』連載「平成の勝負師たち」2020年3月号より

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