趣味

佐藤康光の和服姿に刺激を受けた米長邦雄


2013.04.29

米長邦雄永世棋聖
写真提供:週刊将棋

昨年末、惜しまれながら亡くなった米長邦雄永世棋聖。2003年4月、米長は記者会見を開き、勝ち残った棋戦だけを指し続け、すべて負けたときに引退届を提出する旨を表明。やがて黒星が重なり、冬を迎えるころには第53期王将戦挑戦者決定リーグの対局を残すのみとなった。

 

注目されたリーグ戦では勝ち星に恵まれず初戦から3連敗を喫し挑戦権争いから脱落、事実上の引退が決まり、リーグ終了後に引退届を提出すると発表した。

 

引退が決まって燃え尽きた感が否めなかった米長だが、迎えたリーグ4戦目の佐藤康光棋聖(当時)戦で勝負師魂を目覚めさせる光景を目の当たりにする。

 

米長の引退を見守った観戦記者が、美学を貫いた勝負師の姿を活写する。

 

*  *  *

 

当日の朝、対局室に入室した米長の目に、和服を身にまとった佐藤棋聖の姿が飛び込んできた。スーツ姿の米長は、すぐさま自身の事務所に連絡して和服を届けさせるよう手配した。

 

棋士が和服を着て対局に臨むことには特別な覚悟や意味があるとされる。佐藤は「大一番への敬意や、自分自身に気合いを入れる意味合いがある」と説明する。このときは「引退する超一流の大先輩へ敬意を表する意味」で和服を着た。少年時代に米長の著書を読むことで将棋の魅力にとりつかれ棋士を志した佐藤にとって、米長はスーパースターであり、憧れの存在だった。

 

午前中はスーツ姿で対局した米長だったが、和服が無事に届くと、昼食休憩を利用して着替えた。午後からは両者ともに“勝負服”を身にまとっての対局となった。その様変わりした姿を目にした佐藤は感激したと言う。「和服に着替えられた姿を見て初めは驚きましたが、米長先生一流の対処法なのかもしれません。おかげさまで憧れの先輩棋士とタイトル戦のような雰囲気を味わいながら対局することができてうれしかった」と当時を懐かしむ。

 

その対局は激戦の末に米長が敗れた。先入観にとらわれることのない佐藤の深い読みに、「まさかの好手」と表現して後輩の指し回しを絶賛した。米長は不利な状況下におかれたとき、相手の選択肢を増やし局面を複雑化させて逆転勝ちを収めるのを得意にしていたことから、泥沼流と異名がついた。一方で盤外ではジョークを交えた独特の言い回しでファンを魅了したことから、さわやか流とも呼ばれた。敗れたことは悔しくても、対局が終われば内容を真摯に精査する。後輩でもいい手を指せば素直に褒めたたえる。持ち前の勝負強さに加えて、気持ちの切り替えの早さが長年一線で活躍し続けた棋士・米長邦雄の原動力だったのではないだろうか。

 

佐藤は「米長先生には勝負の厳しさを教えていただきました。対局中の集中力はすさまじいものがありました。人間離れした終盤力は、多少分が悪そうでも最後は射抜いてしまう、そんな迫力がありました」と米長将棋の魅力について語る。

 

■『NHK将棋講座』2013年4月号より

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