趣味

甘いものに目がなかった篤姫 命日に供えられた「白いんげんの甘煮」


2018.04.08

甘党の篤姫が特に好んだのが、この煮豆。20日の月命日に天璋院の絵をかけて「はつか様」の御膳を供えるのは、徳川宗家で戦前まで毎月欠かさず続けられた行事でした。つくり方はテキストに掲載しています。(料理:柳原尚之さん 撮影:久間昌史さん 椀・懸盤:公益財団法人德川記念財団蔵)

薩摩から将軍家に輿入れし、維新後も徳川家に残った篤姫(あつひめ)。甘いものが好きで、大奥では故郷の味が忘れられず、薩摩の食材を取り寄せていました。彼女の月命日の20日、仏前に供えられたのは、好物の白いんげんの甘煮。意外な料理に篤姫の一面がかいま見えます。動乱の幕末を乗り越え、人々に慕われた篤姫の人生を支えた食をたどってみましょう。解説してくださるのは、志學館大学教授の原口 泉(はらぐち・いずみ)さんです。

 

*  *  *

 

好物は甘いお菓子とフルーツ

 

篤姫は甘いお菓子やフルーツが好きだったといわれています。薩摩から江戸へのお輿入れの旅の途中、熊本ですいかを食べたことや、岡山県矢掛(やかげ)宿では名物の柚(ゆ)べしを大量に購入したという記録が残されているそうです。また大奥では下等なものとされ、高貴な身分の人は食べなかった樽(たる)柿(空の酒樽に渋柿を詰め、渋抜きしたもの)も食べていました。

 

夫である第13代将軍・家定も甘いものが好きで、まんじゅうやカステラをこしらえたといわれています。もしかしたら家定のお菓子を2人で一緒に食べたこともあったのかもしれません。びわも好物のひとつで、篤姫のお墓の側(そば)にはびわの木が植えられており、徳川家では今でもこれを大切にしています。

 

幅広くいろいろなものを食べている篤姫ですが、好き嫌いもあり、はまぐりやあわびは好物でしたが、あさりやしじみは食べなかったといいます。また明治になって篤姫が湯治の旅に出たときに、姑の本寿院(ほんじゅいん)から「畑の長なすができたので、好物の漬物にして食べさせたい」と書かれた手紙が送られており、長なすの漬物が好きだったのではと思われます。

 

大奥で故郷の味をお取り寄せ

 

篤姫は、ライチも好物でした。薩摩藩はその温暖な気候で山川、佐多、吉野などに薬園をつくっており、漢方薬などの材料になる貴重な植物を育てて、藩の財政に役立てていたのです。その薬園ではライチや竜眼(りゅうがん)などが栽培されていて、みつ漬けやドライフルーツにして、幕府や親族、京の近衛(このえ)家などの公卿、また親交のある大名などへの贈り物にしていました。みつ漬けは、ガラスの瓶にライチ、竜眼を詰め、はちみつを注いで密封して保存性を高めたもので、当時はとても珍しく、贅沢なもの。お輿入れしてからは、薩摩から篤姫のところに数瓶届けていたといいます。甘いフルーツのみつ漬けですから、篤姫はきっと大喜びで食べていたことでしょう。

 

大奥で篤姫が楽しんでいた故郷の味は、これだけではありません。篤姫付きのお局(つぼね/幾島)から薩摩藩奥女中への書状が残されており、そこには「篤姫が薩摩の赤みそ(麦みそが熟成して褐変するまでねかせたもの)なら召し上がるけれど、それ以外のみそは食べようとしないので、藩邸から少々分けてほしい」という頼みごとが書かれています。また藩邸でつくられていた高菜の漬物を所望する手紙もあって、大奥と薩摩藩邸では頻繁に食材のやり取りをしていた様子がうかがえます。

 

これらの好物のおかげで、篤姫は脚気にもならず、元気に過ごせたのでしょう。

 

德川宗家で続いた「はつか様」

 

江戸城明け渡しのあとも篤姫は薩摩には戻らず、最後まで徳川家の人間として貫き通しました。徳川宗家第16代の当主となった家達を熱心に訓育し、第13代将軍・家定の実母・本寿院や、第14代将軍の実母・実成院(じつじょういん)とともに暮らし、維新後の徳川宗家の人々にとって、とても重要な精神的支柱でもあったようです。

 

第17代・家正(いえまさ)の三女である保科順子(ほしな・ゆきこ)さんの『花葵 徳川邸おもいで話』に、徳川宗家では、天璋院(篤姫)の月命日である20日には「はつか様」と呼んで、彼女の好物をお供えしていたことが書き記されています。このことからも徳川家がとても彼女を大切に思っていたことがうかがわれます。これは第二次世界大戦前まで続きました。

 

その「はつか様」に供えられた料理は「白いんげんの甘煮」と「あんかけ豆腐」、「きがら茶飯」という日常的なメニューでした。将軍の御台所であった篤姫ですから、豪華な山海の珍味を楽しんだり、贅沢な味も知っていたはずです。でも人生の最後に好んだこの料理こそ、彼女にとって究極の味といえるでしょう。意外にも思えるこのお膳には、大きな時代の転換を受け入れながら、ぶれずに現実を見つめ、自分で人生を選んでいった篤姫の、日々の姿勢が込められているのかもしれません。

 

■『NHK趣味どきっ! 幕末維新メシ』より

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