趣味

「北風」が江戸時代に冬の季語ではなかった理由


2013.03.01

俳句には通常、その季節をあらわす「季語」が入る。「北風」は当然、冬の季語だが、なぜか江戸時代の俳句で北風を季語としたものはないという。この謎について俳人、有馬朗人(ありま・あきと)さんに解説していただいた。

 

*  *  *

江戸中期の安永四(1775)年に刊行された五巻から成る辞書『物類称呼(ぶつるいしょうこ)』には日本全国の方言が約四千語集められています。内容は天地・人倫・動物・生植・器用・衣食・言語の七部門に分けられていて、読みやすくしてあります。

 

この中に「畿内及中国の船人のことば」として「(六月)土用中の北風を土用あいといふ」と書かれています。当時俳諧(はいかい)が盛んであった近畿や中国地方では、夏の土用に北風が吹き、それを「土用あい」と呼んだのです。「あい」は北ないし東の風という意味です。ですから近畿や中国では、北風は夏の土用に吹くものという考えがあり、北風を現在のように冬の風と認識しなかったのかもしれません。このような事情で、江戸時代には北風は冬の季語として使われなかったと考えられます。

 

■『NHK 俳句』2012年12月号より

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