趣味

「強い人と指したいと思ったことが一度もない」──藤井猛九段の勉強法


2016.12.17

写真/河井邦彦

今回登場するのは、木村一基(きむら・かずき)八段からバトンを受けた藤井 猛(ふじい・たけし)九段。実戦の指し過ぎに注意するとともに、負けた将棋ではなく、勝った将棋を反省するのが大事という話は必見だ。

 

*  *  *

 

得意戦法を持って厳選して指す

 

棋士のインタビューを見ていると、「強い人と指したい」といった回答が多いと感じます。私ですか? むしろ逆です。強い人と指したいと思ったことが一度もありません。

 

上達するためには自分より棋力がほんの少し下の人と指すのがベストだと考えます。負け将棋から多くを学ぶとよく言われますが、私は賛同しません。勝局の中にも反省する材料はいくらでもあります。勝つと満足感を得られて精神的に楽ですからね。

 

私は実戦をあまり指さずに奨励会入りをしました。負けると熱くなるタイプの性格ですから、最善の選択だったと思います。自分がどの程度の棋力なのか把握できなかったことも、自信を失うことなく頑張ることができた要因です。

 

先月号でも述べたように私はスタートが遅く、当時の実力を正確に知っていたら、絶望感を抱いて続かなかったことでしょう。実戦不足でしたので手の見え方は遅かったですね。長考派でした。

 

実戦の指し過ぎには細心の注意を払いました。1日に何十番も指すと最後はどうしても惰性になってしまい、身が入りません。「熱いっ、もう一番!」では意味がありません。1日に厳選して数局だけ指すことで、知識は蓄積されていきます。この考え方に気がつかなかったら、私はプロ棋士になれなかったでしょう。1局の将棋をまずは集中して指す。さらに勝って感想戦で反省をすることが上達の秘訣(ひけつ)だと、現在でも信じております。

 

私が振り飛車を指し続ける最大の理由は、得意戦法で戦えることに利を感じるからです。得意戦法を持つと序盤から勝つイメージが浮かびやすくなります。振り飛車は相居飛車と違って研究した想定局面に持ち込みやすく、自分の土俵で戦えることは勝負の面でかなりのアドバンテージです。相手は常にアウェーの状況ですから、時には対応を誤ることもあるでしょう。

 

プロ同士の対戦では振り飛車が狙い打ちされるといったリスクがあります。ですが、プロの対局は長年にわたって厳しい修業を続けてきた強者(つわもの)同士が極限の状態で戦うもの。野球で例えるなら、160キロを超える剛速球から100キロ以下の変化球まで、的確に打ち分けるのがプロです。アマチュアの皆さんには不可能に近いと言えるでしょう。

 

相手の得意戦法を狙い打つのは、プロだからこその戦略と言えます。ですのでアマチュアの皆さんには、ぜひとも自分の土俵で戦える振り飛車をオススメしたいです。

 

話は変わりますが、プロの序盤は難しいですよね。我々プロ棋士が解説でプロの常識を皆さんに押しつけているのが現状です。覚えたばかりの方は自分の好きなように指してください。初めからプロレベルの剛速球など打てなくて当たり前ですよね。トスバッティングで基礎を身につけてから、徐々に球速を上げていけばいいのです。

 

最後に私の近況を少々。これまでは角交換の有無に関わらず、四間飛車一本でやってきましたが、少し前から中飛車や三間飛車を取り入れて作戦の幅を広げています。これまではエース1人で戦ってきましたが、現在は先発3本柱がそろっている状態です。最近は戦型の選択肢が増えたことでゆとりが出てきたようで、今期は銀河戦で久々に優勝することができました。相手の的を絞らせにくくするのも大事な戦略です。

 

■『NHK将棋講座』2016年12月号より

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