趣味

食にこだわった正岡子規と斎藤茂吉


2013.03.01

自分にとって最もシンプルに思い浮べる食べ物は何であろうか。「私はまあ納豆ごはんかなあと思います」——そう語るのは歌人で短歌結社誌「塔」選者の花山多佳子さん。花山さんに「食」をうたった歌人の句を紹介してもらった。

 

*  *  *

 

食べ物は時代によってどんどん変わるようでもあり、でも案外に変わらないようでもあります。

 

食は日常の最重要事項ではありますが、よくうたう人とうたわない人にわかれるかもしれません。

 

・下総の結城の里ゆ送り来し春の鶉をくはん歯もがも(正岡子規『竹之里歌』)

・菅の根の永き一日を飯もくはず知る人も来ずくらしかねつも(同)

 

先ずよくうたう正岡子規の歌。毎日食べたものを日記に書き記すほど食には関心がありました。結核の身体が保っていたのはよく食べたからです。ところが歯を悪くして食べられなくなったときの歌がこの二首です。

 

「下総の結城の里」は弟子の長塚節(たかし)の里で、そこから送ってくれた鶉を(うずら)を食う歯があったらなあ、という嘆きの歌です。「もがも」は『万葉集』の時代の用法で、あるといいなあという願望をあらわします。「はもがも」といかにも食べにくそうで、おかしくなります。

 

二首目、子規にとって「飯もくはず知る人も来ず」がいかに暮らしかねる辛いことか、よくわかります。よく食べ、来客とよく語るのが何より好き。悩みが明快でさっぱりしています。「菅の根」は「永き」にかかる枕詞。万葉調が平明に取り入れられています。

 

・ひと老いて何のいのりぞ鰻すらあぶら濃過ぐと言はむとぞする(斎藤茂吉『つきかげ』)

 

食べ物の歌といえば茂吉、中でも鰻は有名です。どんなに食べても美味かったその鰻が、老いて脂っ濃く感じられたという歌がこれ。それだけの話なのですが、うたい上げかたがすごいですね。ああ鰻ですら、という嘆き。「ひと老いて何のいのりぞ」が難しいですが、老いはもう何の願いがあろうか、という感じでしょうか。好物に以前のようなおいしさを感じなくなったとき、しみじみと老いを思う、これは人生の真実だと思います。『つきかげ』は茂吉の最後の歌集です。まだ六十六歳なのですが、老いの衰えは早かったようです。

 

■『NHK 短歌』2012年12月号より

 

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