趣味

短歌に初めて出会ったときの記憶


2013.04.04

「子どもの頃、犬にほえられて追いかけられた経験のある人は、そのあといくらかわいい仔犬を見たとしても『こわい』という感情が先立ってしまう」———。

 

こう語るのは歌人の天野慶さん。何事も初めて出会ったときの記憶は重要だ。では、短歌は子どもたちにどう紹介されているのだろうか。天野さんが自身の体験をもとに考えを語った。

 

*  *  *

 

先日、現在使われているすべての小学校の短歌・俳句に関するページのコピーを見せていただいた。世田谷区が独自に使っている「日本語」の教科書を除けば、教科書に初めて短歌が登場するのは小学校3年生の教科書で良寛の歌が2首載っている。

 

小学4年生になるとずいぶんたくさんの教科書で掲載されるようになる。登場歌人は百人一首に収録されている歌人が多く、それに追加して石川啄木、与謝野晶子、佐佐木信綱、橘曙覧(たちばなのあけみ)。

 

歌の解説はほとんどなく「声に出して読んでみよう」という指示が出ている。意味を考えるのではなく、リズムや響きを味わいましょう、と。

 

わたしたち現代歌人が、今この瞬間にもたくさんの歌を詠んでいる。毎月発行される同人誌、商業誌。出版される歌集。それから新聞に投稿される短歌もある。星の数ほど「今」の歌はあるのに、教科書に載るのは鎌倉時代や平安時代の歌がほとんど。

 

詩や童話、小説は動物を主人公にしていたり、読者と同じような立場の子どもが主人公だったり。共感や想像をしやすい世界が描かれている。作者は現代、さかのぼっても新美南吉や宮沢賢治まで。

 

平安時代の歌ももちろん知ってほしい。意味が分からなくても、ふと桜を見上げて「ひさかたのひかりのどけき……」とついこぼれてしまう、なんて素敵だ。

 

でも、ただ意味も考えずに暗誦だけではもったいない。音の流れとしてただ覚えるというのは頭に入ること。共感するということは心に届くということだ。

 

初めて出会うのが共感できる現代短歌だったら短歌への感情が少しは違うのかもしれない。教科書に載ってる短歌から現代までに開いた穴は大きい。ジセダイタンカのさらにジセダイのためにも、この穴にぜひ橋を架けたい。

 

■『NHK短歌』2013年3月号より

 

 

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