趣味

2006年の名人戦で生まれたドラマ


2013.03.11

真剣勝負の将棋の世界では、さまざまなドラマが生まれる。「碁打ち、将棋指しは親の死に目に会えない」とも言われるが、平成18年(2006年)度のA級順位戦では、まさに同じ出来事が起こった。

 

河口俊彦七段が当時のA級順位戦と名人戦を振り返る。

 

*  *  *

 

平成18年度のA級順位戦は、スタートから郷田真隆が好調で、4連勝するなどして、最終1局前の8回戦で阿部隆を破って挑戦者となった。

 

結果から見て、初戦の対羽生善治戦で勝って勢いに乗った。また、対阿部戦は大阪で行われたが、対局当日の朝、郷田の父の克己さんが亡くなった。それを知らされたのは終局後で、悲喜入り交じる勝利だった。

 

余談になるが、昔は「碁打ち、将棋指しは親の死に目に会えない」と言われた。その由来は、お城で対局中は、いかなる事が起こってもお城から出ることが出来ない、という決め事があったからで、碁打ち、将棋指しがやくざな商売、といったようにとられるのは誤解である。

 

さて、郷田の登場は、待ちに待っていた人が出てきた、という感じであった。四段デビューしたときから羽生に劣らぬ大器と言われ、C級2組のとき、谷川浩司から王位を奪った。実力とともに一流棋士の風格さえあった。タイトル戦のときの郷田には、惚ほれぼれとさせられたのを思い出す。

 

ところが期待に反して、その後伸び悩んだ。もちろん順位戦は順調に昇級したし、棋聖その他のタイトルも奪った。しかし名人、竜王になっていない。

 

それに指し盛りのころ、挑戦者決定戦で何連敗かしたことがあった。私などは、数多くそこまで勝ち上がったのはすごい、と思ったが、ここ一番に勝てない、との印象を持たれて損をした面もあっただろう。

 

そういう人が名人戦に出て勝てば、化ける可能性が大だし、受けて立つ森内俊之の方も、勝てば永世名人の資格を得る。中原誠対米長邦雄戦とか谷川浩司対羽生善治戦のような華やかさはないものの、これは大一番だったのである。

 

●粘りに粘る郷田

 

森内対郷田の名人戦は4月10、11日、山口県長門市の第1局から開始された。

 

第1局は森内の向かい飛車から、両者穴熊に囲っての戦いとなった。終盤森内にチャンスがあったが逃し、郷田に好手も出て、郷田が幸先(さいさき)よく滑り出した。

 

第2局は本格的な「相矢倉」。先手の森内が手厚く構えて終盤は優勢になったが、またもチャンスを逃し、2連敗となった。

 

窮地におちいった森内だが、名人戦になると、逆境に強い。第3局から第5局まで3連勝し、たちまち優位に立った。内容も森内に好手、名手が多く出て、第3局と第4局は圧勝だった。

 

そうして第6局。流れは依然として森内がよく、終盤では必勝となった。ところが最後に森内らしからぬ大失着が出て逆転。郷田が勝ちを拾った。これで3勝3敗。

 

最終第7局は振り駒で郷田が先手番となった。

 

戦型は「角換わり腰掛け銀」。互いに趣向を凝らし、気合いが入った戦いとなったが、中盤で郷田に失着が出た。すかさず森内が乗じ、その後は誤りなく寄せ切った。郷田もよく粘ったが、勝負弱さがここで出てしまった。

 

これで森内は名人位を防衛し、名人位通算5期で、十八世名人有資格者となった。ここでは羽生に一歩先んじたのである。

 

タイトル戦で敗者がここまで指したのは珍しい。郷田の無念さがあらわれている。

 

■『NHK将棋講座』2013年3月号より

 

 

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