趣味

二十五世本因坊治勲、長年の夢がかなった瞬間


2014.12.20

イラスト:石井里果

趙治勲(ちょう・ちくん)二十五世本因坊の長年の夢は、リビングに飾ってある、先日亡くなった呉清源(ご・せいげん)九段とのツーショット写真にサインを書いてもらうこと。その夢がかなった日の話。

 

*  *  *

 

きっかけは、7月4日に行われた「呉清源先生の百寿を祝う会」(主催・読売新聞社、呉家)です。ぼくも出席して、改めて先生の偉大な足跡に感じ入っていたら、ある女性から声をかけられました。呉先生の娘さん、呉佳澄さんでした。

 

「NHK囲碁講座で『ちょっといい碁の話』を読みました。私でよろしければサインの件、取り持ちましょうか?」

 

感激ですよ、天にも昇る気持ちとはこんな感じなのでしょうか。ただ、100歳という高齢です。当日の体調しだいではサインできないこともあるとのことでした。

 

ワクワクしてその日を待ちました。先生にお会いするのは久しぶりです。案内されて先生の前に行くと、なぜか不思議そうな顔をされている。ぼくが分からないのかなと思ったら、最近使い始めたメガネのせいでした。慌ててメガネを取ると「おお!」と驚いた声を出されて。そこで気付いてくれたようです。

 

先生のところにはマイケル・レドモンド九段夫人のお姉さん、牛力力(ニュー・リーリー)さんが月に一度、訪ねているそうです。碁やお話の相手を務めるために。牛さんからはこんなアドバイスをもらっていました。

 

「先生は碁を見ると元気になります」

 

当日は10局ほどの棋譜を用意してくれました。それをぼくが先生の前で並べる段取り。30手くらい並べて先生に解説を求めるのがいつものパターンだそうです。

 

ここでね、驚きましたよ。それまであまり元気には見えなかった先生が急にシャキッとされて。しかも、声だって大きくなっちゃったんだから。形勢を聞かれると即答に近い速さで、「白がいい!」、「黒は小さい!」などと返ってくる。大げさではなく、碁の質問をすればするほど元気になるんじゃないかと思えたくらいです。

 

かなり並べたなあ。そしたらね、いつもはこんなにしないんだって。この日は特別元気だったと聞いて、うれしかったなあ。

 

で、一つ、気付いたことがあります。ぼくが並べたのは先生の実戦譜。「(形勢が)いい!」と言ったのは全部先生のほうだったんだ! すごいよね。100歳になっても闘争心旺盛というのか、負けないぞっていう気迫? 本能的な部分で先生はいまだに碁というものに深く関わっている感じが伝わってきました。すばらしいです。

 

先生は若いころから自信家でした。同じ布石を打っても自分のほうがよく見えるとか。ぼくは正反対。100歳になるころには碁を見るたびに、「ひどい!」、「ぜんぜんダメだ」とため息ばかりついていそうです。

 

そのあとにお待ちかねのサインを頂きました。お世辞でも何でもなく、達筆です。見せびらかしたいくらいにね(笑)。

 

実はぼく、サインをもらうのは生まれて初めてでした。サインをするのは嫌いだったけど、こんなにうれしいならもっとしておくのだったなあと…。少し反省、少し後悔しています。

 

先生はその昔、歌舞伎俳優と見まごうようなイケメンでした。時の流れとは厳しいもので、今は100歳相応の顔。なんだかさみしくて涙が出ました。でも、それでも、先生が大好きです。

 

■『NHK囲碁講座』2014年12月号より

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