趣味

田中魁秀九段が弟子を怒らない理由


2013.03.15

田中魁秀九段の師匠・本間爽悦八段は厳しい人で、修業時代には説教されてばかりだったという。逆にその影響を受けて、よほどのことがない限り弟子を怒らないと田中九段は語る。

 

一門は福崎文吾九段、佐藤康光王将というタイトルホルダーを輩出。木見金治郎九段から続く関西の名門が存在感を見せた。

 

田中九段の子弟の物語を、上地隆氏が聞いた。

 

*  *  *

 

「奨励会から帰って、先生のうちに行くときも怖かった。成績が3連勝とか2勝1敗やったら、まあまあ怒られへん。でも3連敗とか1勝2敗とかやったら、怒られる。その間ずっと正座。崩したらまた怒られる。それで『今日指した将棋を並べよ』って言われるんですけど、その時分は奨励会へ入っているって言うてもまだ弱いから、ちゃんと並べられへんときもあって。そしたら虫の居所悪いのか、説教が明け方まで続く。

 

先生は半分寝てるんやけど。大きな声でどなるもんやから、隣の母屋にいる先生のお母さんが『そんな小さい子ども、早く帰してあげえなあ』って助け舟を出してくれたりしてね。私の親も心配になって、朝方きて『もう学校へ行かなあかん』って言うても『そんなん関係あるか!』てどなって。そんなことが4、5回あった。

 

でも師匠を変えたいとは思わなかった。ただ将棋好きで強くなりたい、それだけやった。

 

いい思い出? そやな、1回映画につれていってもらったことがあるわ。『007』。一番最初のシリーズかな。どういう風の吹き回しかわからんけど、機嫌良かったんかな、それだけ不思議と覚えてる。

 

私が棋士になったとき、そりゃ喜んでくれたと思う。うちの先生とは何度か公式戦で対戦した。1回、順位戦で私が勝ったら、うちの先生が降級するか、危なくなることがあって、嫌やなあ……って思いながら指した記憶がある。でも確か、私が勝った。私が棋士になってからも、先生は相変わらずで」

 

●温厚な人柄にたくさんの弟子入り志願

 

本間爽悦と田中の師弟関係は、必ずしも良好ではなかった。だからこそ田中は言う。

 

「私はうちの先生からさんざん怒られたからよほどのことがない限り、自分の弟子には怒らへん」

 

プロ棋士はいい意味で自分本位、特に大ベテランともなれば近づきがたい雰囲気を放つタイプもいるが、対照的に田中は気さくで、温厚で、腰が低い。おまけにコテコテの関西弁。「ほな!」と言って、さっさと感想戦を終える田中の姿をよく見かけるが、棋士や関係者の中にはそれを面白がってモノマネする者もいる。

 

関西の棋士は伝統的にモノマネ大好きで、特徴のある人はすぐまねされる(有吉九段や淡路九段のモノマネは、むしろできなければ関西人失格である)。それだけ周りから慕われている証拠なのだ。

 

■『NHK 将棋講座』2013年3月号より

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