趣味

櫛田陽一六段のプロ挑戦を決意させた谷川浩司名人との一局


2014.12.09

田丸 昇九段(左)と櫛田陽一六段 撮影:河井邦彦

櫛田陽一(くしだ・よういち)六段は、中学2年生のときに『5五の龍』というマンガがきっかけで将棋を覚えた。中学3年でアマ三段の棋力となっていたが、家庭の経済的事情もあり、高校へは進学せずにアルバイトをしながら将棋を指していた。金銭的な問題からプロになりたいという思いを押し殺していた櫛田六段の人生を変えたのは、若き谷川浩司名人との邂逅だった。

 

*  *  *

 

このころの私は17歳でアマトップという立場なので、よくプロ棋士やアマ強豪の方からプロにならないかと誘われていた。

 

奨励会に入れば四段になる自信もあったし、このころは奨励会の有段者と指しても負けることはなかった。だが、やはり経済的なことを考えると、いまいちその気にならなかった。

 

今思うに、このときに奨励会試験を受けていたらもっと早く四段になっていたし、違った人生になっていたかもしれない。

 

この当時奨励会に入ると57年入会組なので、羽生、森内、佐藤康と同期となる。彼らは6級入会で、私は1級入会なので、彼らが強くなる前に奨励会を抜けることができたと思う。そして昭和58年の春ごろに田丸(昇九段)先生にプロになる気はないかと誘われた。だが、やはり奨励会入りする気はなかったのでお断りさせていただいた。

 

しかしこの後に自分の人生を変える出来事が起きた。アマ強豪やプロ棋士がよく出入りする新宿の将棋酒場「リスボン」という店に顔を出したときに、谷川浩司名人(当時)とお会いした。そして周りの勧めもあって谷川名人に一局教えていただいた。当然負けたが、何か胸の中を熱いものが込み上げてきた。

 

この男ともう一度戦いたいという気持ちになってきた。「だがそれにはプロにならなければだめだ。生活的には大変だが何とかなるだろう。もう一度、あの谷川名人と戦うためにやるだけやってみよう」

 

そんな気持ちになり、田丸先生に師匠になっていただけないかとお願いした。田丸先生は快く引き受けてくれた。

 

この年の夏に奨励会試験を1級で受けて合格することができた。奨励会試験では、2次試験で羽生善治1級と当たり、勝って合格を決めることができた。羽生さんは入会して1年で1級になり、森内さんは2級に、佐藤康光さんは関西で1級になっていた。思えば、この三人とは奨励会時代によく当たったものだ。

 

入会してからは、田丸先生にはずいぶんとお世話になった。経済的なことで助けていただいたり、自宅に呼んでいただいて将棋も教わった。当時、田丸先生の奥さんだった谷川治惠さんにもずいぶんとお世話になった。そして、アマ時代からお世話になっているアマ強豪の方々にもいろいろと助けていただいた。奨励会時代に生活の心配をしないで将棋に打ち込めることができたのは、こういった方々のおかげだと思う。本当に感謝している。

 

奨励会には1級に3か月、初段に1年半いた。この初段時代がいちばんつらかった。お酒の味や賭け事を覚えたのがこのころである。二段には1年いたが、三段からは半年で四段に上がった。

 

■『NHK将棋講座』2014年12月号より

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