趣味

井山裕太本因坊の「夢に向かって没頭する能力」


2013.03.08

囲碁&野球ライターの佐野真氏は、「囲碁とスポーツにおける精神面との関係」を生涯の研究テーマにしている。その佐野氏が、現在の囲碁界で最高の精神状態で碁盤に臨んでいると絶賛するのが井山裕太本因坊だ。

 

佐野氏が井山本因坊のメンタル面のすごさを語った。

 

*  *  *

 

今から10年ほど前、井山さんが入段して2、3年目のことです。

 

 

僕は東大阪市にある彼の実家を取材で訪ねたのですが、彼の部屋には著名棋士からもらった多くのサイン色紙が、壁一面に飾られていました。そして井山さんは「このサインは△△先生から何々のときにもらったもので——」と目を輝かせ、最後には「僕も将来、タイトルを取りたいし、世界戦で優勝したいです」と語ってくれました。

 

井山さんは子供のころに抱いたこの夢を、一日たりとも忘れたことがないのでしょう。実現のために、自分では「努力をしている」という感覚もないくらいにすべてのエネルギーを注ぎ込んできたからこそ、その夢が今、現実となっている——「夢に向かって没頭する能力」が傑出しているのです。

 

もちろん、順風満帆な日々ばかりではありませんでした。19歳で名人位に挑戦し「10代の名人誕生なるか」と騒がれた七番勝負で、井山さんは張栩名人に3勝4敗で敗れました。

 

対局後にホテルのロビーで記者陣からの質問に受け答えしていて、その姿を見た僕は「若いのに立派なものだ」と感心していたのですが、後日聞いた話によると、この直前にいったん自室に戻り、一人で「悔し涙を流していた」そうです。

 

そのときに「翌年の雪辱も誓った」そうで、この強い思いが翌年の「史上最年少、20歳での名人奪取」へとつながったことは間違いありません。

 

そして現在の「五冠」という充実ぶりの源は何かと考えると、これまた入段時から一貫してコメントし続けてきた「結果を考えず、打ちたい手を打つ」ということを、決して口にするだけで終わらせず、今なお実行し続けている点にあるのではないでしょうか。

 

結果を考えるからこそ「恐怖感」が生まれ、パフォーマンスの低下を招くというスポーツ心理学における大原則は、『NHK 囲碁講座』で度々お話ししてきたとおりです。「どんなときでも常に発想が柔軟で、迷いがない」と称される井山さんの最大の特長は、この「いま打ちたい手を打つ!」という精神面にあるのだと考えます。

 

■『NHK 囲碁講座』2013年3月号より

 

 

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