趣味

高尾紳路十段、「このまま並の棋士で…」と恐れた時期も


2014.11.16

撮影:小松士郎

「平成四天王」の一人として、山下敬吾(やました・けいご)九段、張栩(ちょう・う)九段、羽根直樹(はね・なおき)九段とともに頂点に君臨してきた高尾紳路(たかお・しんじ)十段。現在は井山裕太(いやま・ゆうた)六冠以外ただ一人のタイトルホルダーとして、十段位を保持している。四天王の中では羽根と同い年の最年長者(37歳)。しかし第一線に躍り出すのは、年下の山下や張栩よりも遅かった。年少のライバルに先を越され、焦る気持ちもあったのではないかと想像するが、そうした苦悩の日々を乗り越えたことで、現在の高尾十段がある。

 

*  *  *

 

入段直後、特に他の棋士を意識したことはありませんでした。師匠の藤沢秀行(ふじさわ・ひでゆき)先生(名誉棋聖=故人)からも「目先の結果にとらわれず、将来強くなればいいのだから、そのために勉強しておけばいい」という言葉を頂いていたので、自分の中で十代のころは、結果を気にせず、伸び伸びとやっていたように思います。

 

成績もそれなりに勝てていたのですが、それはやはりプロになったことによって自覚が出てきたことが大きかった。入段して環境が変わったことで「しっかり勉強して実力を付けなければ」という気持ちになり、15歳くらいから本当に必死に勉強するようになりました。そうした中で1996年、僕は20歳になる直前に新人王戦で優勝したのですが、その4年後の2000年に、山下さんが碁聖位を獲得し、羽根さんが名人戦リーグ入り、張栩さんが本因坊戦リーグ入りを果たしました。このころからでしょうか、新聞や雑誌で「若手四天王」という言葉を目にするようになったのは…。当時の若手棋戦もほぼこの四人で優勝する構図が出来上がっていたので、僕もいつの間にか、自然と他の三人を意識するようになりました。

 

そして翌年の2001年には、張栩さんが本因坊戦の挑戦者になり、羽根さんは天元のタイトルを獲得しました。でも僕はといえば、タイトル戦出場はおろか、リーグ戦にすら入っていない…。そうこうしているうちに、山下さんが棋聖、張栩さんが本因坊、羽根さんが棋聖といった具合に、三人はますます頂点へと駆け上がっていった…。正直、取り残されたという思いが強かったです。

 

三人とは逆に、僕は20歳を越えたころから成績が伸びなくなりまして、それから数年、自分としては自分なりに一生懸命にやっていたつもりでした。しかし周りが棋聖を取ったり本因坊を取ったりとかしていたので「なぜ自分だけ結果が出ないのか…」と本当に悩みました。

 

師匠の藤沢先生からは「勉強を続けていればいつか必ず結果は付いてくる」と言われ、自分の中でも勉強は小さいころからの習慣になっていたので、勉強を欠かすことはありませんでしたが、それでもやはり焦りみたいなものは生まれてきてしまい…。

 

いろいろと勉強法や生活を変えて、試行錯誤もしました。他の世界からも何かヒントを得たいと思って本を読んでみたり、ジムに通って身体を鍛えてみたり…。しかし結果は出なかった。確か「これに勝てばリーグ入り」という碁で5連敗くらいしたのではなかったでしょうか。

 

で、最後にたどり着いたのは「とにかく勉強していれば、いずれ何かいいことがあるのではないか」ということでした。あれこれ考えたり悩んだからといって結果がすぐに出るわけではないのだから、もう最後は「自分を信じて勉強を続けるしかない」ということですね。しかし同時に「このまま並の棋士で終わってしまうのではないか」という恐れに似た気持ちがあったことも事実です。

 

■『NHK囲碁講座』2014年11月号より

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