趣味

「ペラペラしゃべってしまうから」 趙治勲が高川格と疎遠になったワケ


2014.10.20

イラスト:cus³

『NHK囲碁講座』で連載中の「二十五世本因坊治勲のちょっといい碁の話」。趙治勲(ちょう・ちくん)二十五世本因坊のユーモア溢れるエッセイが人気を博している。10月号では、高川格氏の思い出を語った。

 

*             *  *

 

今月は高川(格・二十二世本因坊秀格)先生を思い出してみました。かなり昔の話ですが、ぼくは東京の目黒に住んでいた時期があります。先生が近くに住んでいると知ったのは、住み始めて間もなくのことでした。これは表敬訪問をしなければと思い、天気のいい日に出かけました。

 

横浜の洋館のような雰囲気の家で、趣味がダンスという高川先生にはふさわしいなあと思ったものです。するとね、先生が、「近いうちにうなぎを食べに行こう。ごちそうするよ」と誘ってくれて。おごってもらえるのなら先生が忘れないうちにと思い(笑)、一週間とあけずに再びお邪魔しました。連れていってもらったのは、地元でも有名なうなぎ屋さんでした。

 

確かにおいしかった。でも、ぼくの知っているうなぎ屋さんのほうが正直、上だと思いました。ぼくの行きつけは小さな店構えで、若いお兄ちゃんが一人で切り盛りしていました。ここは注文を受けてからタライの中で泳いでいるうなぎを捕まえてさばき始めます。1時間は待たされたなあ。でも、そんな待ち時間も苦にならないくらい、とにかくうまかった。先生に連れていってもらった有名店はお客さんが次から次へと来るから、その場でさばくわけにはいきません。その差が味に出たんだろうね。

 

で、いつか先生ご夫妻に「さばきたて」のうなぎを食べさせてあげようって思っていたの。うなぎ屋さんというのを内緒にして誘って、驚かせてやろうって。

 

でも、ある日突然、その店がなくなっちゃった。理由は分からないんだけどね。だから例の計画も水の泡ですよ。

 

「いかがですか、これが本物のうなぎですよ」とぼくが生意気に言ったら、どんな反応をしたのかなあ。先生は洒脱(しゃだつ)な人柄でユーモアのセンスが抜群だった。学者肌で碁も合理的と言われていた。その先生がどう答えるか、楽しみだったんだけどなあ。

 

そうこうしているうちに良くない話が聞こえてきて…。先生、ガンにかかっちゃったんだ。ぼくは感情が顔に出やすくて、なんでもすぐペラペラしゃべっちゃうタイプだから、それ以来、遊びに行きづらくてね。もっと話したかったです。

 

■『NHK囲碁講座』2014年10月号より

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